6/30/2005

War of the Worlds (2005)

宇宙戦争(☆☆☆★)

ある日突然に地球侵攻を開始した異性生命体。地中深くに埋められていた三脚の戦闘マシーンの放つ怪光線や触手の前に、人々は逃げ惑うしかない。たまたま遊びに来ていた2人の子供を連れ、なんの情報もないなかで前妻の住む街を目指す主人公。出演はトム・クルーズ、ダコタ・ファニング、ティム・ロビンスら。スティーヴン・スピルバーグ監督。

これは決して愛と勇気の感動娯楽映画などではないから、取り扱いは要注意である。なにしろ、米国の劇場公開のレイティングを決める際にリアルな暴力よりは一段低く見られる「SF的なバイオレンス」表現であるとはいえ、多くの人が気付いているように「鬼畜」描写大好きなスピルバーグが久々に本領を発揮した、暗くて怖い映画なのだ。

製作の成り立ちを聞くと「ちょっと空いた時間に気軽に作った趣味的な小品」に聞こえてしまう本作において、スピルバーグは米国本土を戦場とし、為す術も無く外敵に蹂躙され恐怖に震え上がり逃げ惑う人々の姿を、自らが生き残るためには手段を問わない人間の醜さを、そのなかで大人たちが無垢な存在である子供に対して負っている責任を描いた。主人公の言動は平均的なハリウッド大作の主人公=ヒーローとは随分異なっていて、格好良さや威勢の良さとは無縁だ。こういう描写をするところにも、作り手の中途半端ではない真剣さをみる。いつもは緩急ある演出でサスペンスを盛り上げるスピルバーグが、いつになくシリアス一本調子であるのも、娯楽映画のバランスとしてはどうかと思う。が、映画の狙いがそこにあるのだから致し方あるまい。

違う言い方をするなら、こうだ。これは「原作を踏襲した一応のハッピーエンディングも嘘臭く見えるほどの圧倒的なまでの負のエネルギーが、スピルバーグ一流のサスペンス・テクニックと共に炸裂する、本年度最もイビツな娯楽イベント映画」である。ポスト911の世界において、最も盛大にそのトラウマをぶちまけて見せた作品であり、つまらない駄洒落承知でいうならば「悪夢との遭遇」だ。三脚戦車がぶおーっと音を立ててのし歩く姿を遠景に見ながら何も出来ない無力感。あの光景。光のシャンデリアとは音楽でコミュニケーションをとったが、あの異星人のマシーンはコミュニケーションを拒絶する。

一聴してその声とわかるモーガン・フリーマンのナレーションは、圧倒的な力で相手をねじ伏せるのではなく、異質なもの同士が長い時間をかけて共存する術を学ぶことにこそ解決の糸口があるのだと語る。あれだけの科学力を持つ異星人があんなことを見逃すのはおかしいなどというのはナンセンス。あれだけの軍事力を持つ米国が、テロを壊滅させることができないがごとく。

普通の民間時である主人公の視点を徹底して貫く映画の構造は、先行したシャマランによる異星人侵略SF『サイン』も同様であったが、あちらの作品が異星人なりなんなりというのを単なるギミックであってそれ以上のものではなかった。表面的にはHGウェルズの原作に忠実な本作は、そういう狙いすました目新しさでなく、もっと本質的に、他の映画では感じたことの無い恐怖を体感させてくれる。もちろんスピルバーグのテクニックは本物だから、それに翻弄されるのは楽しい。

これが「ちょっとスケジュールがあいたから」と、1年足らずの間に撮影され、公開された作品だとはにわかに信じられない。早撮りスピルバーグ、恐るべし。