9/22/1998

RONIN

RONIN(☆☆☆☆)

面白いぞ。古豪ジョン・フランケンハイマー監督、健在である。『D.N.A.ドクター・モローの島』』なんぞを撮ったときはどうかしちゃったかと思ったが。欧州の石畳の狭い路地を駆け抜ける迫力満点のカーチェイス。切れの良い銃撃戦。的確な編集が刻むアクションのリズム。アドレナリン全開の大活劇。脚本にはリチャード・ウェイズの変名で、あの(ベテラン劇作家)デイヴィッド・マメットも参加しているんだから、これは見るしかない。

ある任務を遂行するため、冷戦集結を受けて職を失った元CIA、元KGBなど、仕える組織を失ったプロたち(=RONIN) が金で雇われてくる。計画は順調に進むかに見えたが、裏切りが発生し、パリ、ニースを舞台に謎のブリーフケースの壮絶な争奪戦が始まる。

アクション・スリラーというジャンルにしては、出演者が重量級である。ロバート・デニーロ。ジャン・レノ。ステラン・スカルスゲールド。ショーン・ビーン。ジョナサン・プライス。そして、紅一点ナターシャ・マクエルホーン。アクションは若者に任せておけ、とはならないで、いい年した渋いオヤジたちが欧州で激突する。

もう、これだけのキャストが揃っているからこそだといえるのが、余計な説明がいらない、そこにいるだけで絵になるという存在感である。貫禄というか、余裕というのか、プロフェッショナルとしての重さを、俳優たち自身のそれが全て説明してしまっているという素晴らしさ。なかでは、ハリウッド映画では妙ちきりんな役ばかり振られていたジャン・レノが、欧州、フランスとくればホームグラウンドとばかりに魅力を全開。天下のデニーロが負けじと応じる。ああ、こういう大人なキャスティングで見せてくれるアクション映画なんて、久しくなかったよね。

プロットはシンプルだが物語の進行と共に次第に複雑さを増し、アクションが激しくなっていく。しかし、奪い合うブリーフケースの中身は「マクガフィンなんだから、中身なんて関係ないだろ?」といわんばかりに、最期まで一切明かさないという潔さ。この大胆さがカッコいいじゃないか。まあ、人によってはそういうところが気になったりするんだろうが、それを説明しだすのは野暮というものだ。

RONIN・浪人、使えるべき主人を失ったサムライ。それをタイトルに持ってきて、単にカネで動くだけではない、プロフェッショナルとしての美学を出そうという作り手の意図が見えるのだが、プロフェッショナルというのは、老いてなお、こんなパワフルなアクション映画を撮れてしまう監督であり、それを支えるスタッフたちだ。この映画で見せてくれたカーアクションは、おそらく後々まで語り草になるレベルだと思う。第二班監督に任せることなく、フランケンハイマー自ら陣頭指揮をとったのだという。恐るべし。

9/21/1998

Your Friend and Neighbors

僕らのセックス、隣の愛人(☆★)

しかし、この作品を覆い尽くした陰鬱な空気はいったいなんだというのだろう。ハッピーなカップルにはこの映画を勧めることが出来ないし、崩壊しかけのカップルには余計勧められない困った作品である。まあ、ひとりで劇場に出かけ、他人事として楽しむか、自分のこととして考え込むことになるのか。批評家受けが良いと聞いたが、どうもノれない。

お互いが友人同士である3人の男とその妻たちを中心に、不倫や浮気をきっかけとしてカップル、人間関係、信頼関係が崩壊していく物語である。

世の中をペシミスティックに見ているというのでもない。ただただ後向きで救いがない。現代社会に活きる我々は、男女関係についてここまでの困難を抱えているといいたいのだろうか。それとも、ニューヨーカーに対する自虐も入った当てつけだったりするんだろうか。ニール・ラビュート脚本・監督による2作目だというが、前作は見ていない。監督と親しいらしい、ジェイソン・パトリックが共同プロデューサーに名を連ね出演することで本作の製作をサポートしているようだ。ナスターシャ・キンスキーやベン・スティラー、アーロン・エッカート、キャスリン・キーナーらが出演している。

本作の狙いは、セックスがきっかけでもつれていく男女関係をブラックコメディのタッチでつづることにあるようである。コメディの体裁をとってはいるけど、「笑えないコメディ」の類である。セックス絡みの会話や露骨なシーンも、笑いを運ぶというよりは気が滅入り、かといって当然エロティックに楽しめるわけでもない。物語にしても、ハリウッド流のハッピーエンディングで幕を閉じるわけではない。

まあ、それもいいさ。ハリウッド流ばかりが米映画ではない。インディペンデントからはこういう作家性の強い作品が出てくるところも米映画の裾野の広さである。しかし、それで面白いなら良いが、本作についていえば退屈なだけである。

役者は一応才人ぞろいである。TVスポットを見て、そのキャストに興味を惹かれて劇場に足を運んだくらいである。友人関係なのか、この種の作品にしては豪華といってもいい。

『スピード2』と『スリーパーズ』という2本のビッグバジェット映画でとことん「スター」としての可能性をフイにしたジェイソン・パトリックが、こういう作品のなかで癖の強い役を演じて人が変わったようにイキイキしている。「生涯最高のセックス」として実に吐き気をもよおす告白をするシーンが見ものだろうか。あとは、最近、『メリーに首ったけ』の大ヒットでその存在を広く認識させたベン・スティラー、なんと久しぶりのナスターシャ・キンスキーあたりが目玉となるキャスト。それより地味なところで、アーロン・エッカート、キャスリーン・キーナーが好演していて、登場人物の心理状態というのはよく伝わってくる。まあ、それだけに、コメディよりもシリアスなムードが先行してしまうのかもしれないが。

デビューまもない新進作家の気負いはわかるが、どちらかというと迷惑な感じの1本、としておくことにする。

9/11/1998

Rush Hour

ラッシュアワー(☆☆☆)

ジャッキー・チェン主演最新作。それも、ただの主演作ではない。『レッド・ブロンクス』、『ファイナル・プロジェクト』のスマッシュヒットを受けて、過去に何度も挑み続けたハリウッド進出を実現させた挨拶がわりの1作だ。さて、どんな仕上がりになっているかとともかく劇場に駆けつけた。

在米中国大使の娘が誘拐された。早速FBIが解決に向け動き出すが、大使が個人的に絶大な信頼を置く香港の警官を、助っ人として招くことを主張。面倒に思ったFBIは、地元警察(LAPD)に来客の世話係を依頼するのだが、チームプレイに徹しない口先ばかり達者な刑事が厄介払いにちょうどいいとばかりにその任にあてがわれる。裏事情を知らぬ珍コンビが事件解決に向け奮闘する、という話。そのLAPDの刑事役が、ここのところアクション・コメディで存在感を出しつつあるクリス・タッカー。

まあ、なぜだか知らないが、米国のビデオ屋では、カンフー映画の棚で熱心にタイトルを物色している黒人のニイちゃん、という光景は、なんとなくよくある風景の一つという気がするのである。

『48時間』などに代表されるハリウッドお得意の「珍コンビ」モノを応用し、英語があまり得意でないジャッキー・チェンに、喋りのクリス・タッカーを組ませるという発想。アクション一辺倒ではなく、ウケの良い「アクション・コメディ」というパッケージング。そのことで、主たるターゲットになりそうな有色人種系の観客層をがっちり取り込もうというマーケティング的な目配り。さすがハリウッド娯楽映画工場といったところだろう。

クリス・タッカー出演作品で世に出てきたブラット・ラトナーという監督の人選が物語るように、コメディ色の強い作風になっている。だいたい、ハリウッドでの映画作りでは主演俳優に無理をさせると保険会社が怒るので、ジャッキーが思うようにアクションをできないという話もきく。それに、ジャッキー自身も全盛期を過ぎているのは事実だ。

だが、ジャッキー・チェンといえば、体を張ったドタバタができる現代最高のコメディアンだと言っても過言ではない。小道具を器用に活かしたコミカルなアクションの組み立ては他の追随を許さないものがあって、例えばプールバーでは椅子やスティックを使った素晴らしいアクションを披露して笑わせてもくれるし、クライマックスは国宝級(という設定の)の壷のまわりで、壷が落ちて割れるのを防ぎつつ、数人の敵を相手にする見事な立ちまわりで、観客をハラハラさせながら気がつくと笑いを取っている。

クリス・タッカーが笑いを、ジャッキーがアクションを担当しているように見えて、実のところジャッキーが両方オイシイところをさらっているのは気のせいではない。そんな意味で、いろいろな制約があるハリウッドにおける映画作りでも、こんなかたちでジャッキーの魅力を出していくことができるんだという、お手本としては、本作の価値は低くない。

ジャッキー映画といえば、エンドクレジットのお馴染みNGフィルムの大公開。期待してまっていたら、ハリウッド映画といえこれをきちんとやってくれたのが嬉しい。わかっているじゃないか。ただしあまり痛々しいフッテージがなかったということと、ジャッキーだけでなくクリス・タッカーのNGも均等に公開されていて、ジャッキーのワンマン映画ではないことをつくづく思い知らされもするのであった。

ああ、あと、クリス・タッカー出演作品を撮って本作につなげてきたブレット・ラトナーという男、案外、分かってるんじゃないのと思わせるのは、音楽に『燃えよドラゴン』も有名な、ラロ・シフリンを起用してきたことである。それを含め、音の面では香港時代のジャッキー映画と比べ、かなりゴージャスな仕上がりになっているのがちょっと嬉しいポイントだったりする。

Rounders

ラウンダーズ(☆☆☆★)、

ポーカーの才能に恵まれ、NYのアンダーグラウンドでそれを生業としていた主人公が、ある日大博打で全財産を失い、一度はギャンブルの世界から足を洗う。ガールフレンドの勧めもあり以前から始めていた法律の勉強に打ち込もうとするが、刑務所上がりの悪友や、ポーカーの魅力そのものに抵抗しがたく、やがて危険な世界に再び足を踏み入れていく。これは、そんな裏街道の青春映画である。

『アンフォゲッタブル』で知られる、ジョン・ダール監督の最新作。主演は作品にも恵まれて人気・実力ともにトップクラス入りを果たしつつあるマット・デイモン。共演にこれまた若手実力派で曲者のエドワード・ノートンを配し、ベテラン俳優であるジョン・マルコヴィッチ、マーティン・ランドー、ジョン・タトゥーロが脇を固めるというなかなか魅力的なキャスティングの映画である。

マット・デイモンはギャンブルという「裏」の世界を舞台にしても、チンピラ風の安っぽさがなく、穢れたところを感じさせない個性がある。しかし、見方によってはふてぶてしくもある顔の作りが、意外や、「エリート街道を驀進する優等生」より、「汗をかき、喧嘩もする労働者階級系」のキャラクターに合うところが面白い。

そんな彼と、共演のエドワード・ノートンという組み合わせがなかなか刺激的なのである。ノートンが演じるのは主人公の悪友役で、「憎めないダメ男」として、主人公が泥沼にハマる要因をつくっていく。これはなかなかの難役で、作品ごとに全く違った顔を見せる演技派ノートンが愛嬌たっぷりに演ずるからたまらない。これがただのダメ男であれば、主人公の行動に説得力が生まれないわけで、今回はノートンの大芝居あっての作品、ということもできる。

能天気な明るさはないがユーモラスなシーンにあふれ、陰気な湿っぽさもないが厳しい現実も垣間見せる絶妙のバランス感覚にあふれた脚本。大物俳優たちの余裕たっぷりの怪演を上手にさばきながら、ほろ苦さのある渋い青春映画としての筋を通した演出、そこに貫かれた独特の美意識とスタイル。カラックス作品の撮影で知られるジャン=イヴ・エスコフィエの創りだす映像が雰囲気たっぷりで、見応え充分。この映画、なかなかのものだ。拾い物としてオススメしたい1本である。

もう一つオススメといえば、主人公の恋人を演じたグレチェン・モルがなかなかいい感じである、ということ。物語的には、彼女の魅力を持ってしても主人公を表世界に繋ぎ止めておくことができない、というところが、哀しいところでもあり、主人公の意志の強さを感じさせる部分でもある。そういう意味で、出演時間的には小さい役ながら、主人公の運命の分かれ目を象徴する美味しい役どころでもあった。この人の醸し出す雰囲気が好きなので、今後の活躍に期待しておくことにしたい。

9/04/1998

Knock Off

ノック・オフ(☆)

舞台は中国返還を控えた1997、香港。ファッションデザイナーで実業家の主人公が、CIAとロシアン・マフィアとの対決に巻き込まれてしまう。主演、ジャン・クロード・ヴァンダム。監督は同じくヴァンダム主演の『ダブル・チーム(1997)』に引き続き、本作がハリウッド進出第2作となるツイ・ハーク。

さて。ヴァンダムといえば香港映画界からハリウッド進出への足がかりをつくろうとする監督たちの踏み台として使われてきたのはご存知のとおり。マーシャルアーツ的な体技ができるアクション俳優であること、金をかけずに量産されている手軽な軽量娯楽映画の主演俳優であることなどが、それに向いているということなのだろう。

記憶をたどれば、まず、サム・ライミが製作し、ジョン・ウーが監督した『ハード・ターゲット』があり、リンゴ・ラムが監督した『マキシマム・リスク』があった。これらの作品は、監督のベストとは言い難いが、「ヴァンダム映画」としては割と面白く見られる作品になっていたんじゃないか。

そこで、ツイ・ハークの前作『ダブル・チーム』があった。NBAのビッグスター、デニス・ロッドマンが出演し、悪役にミッキー・ロークというやつだ。これが面白くなくてな。デニス・ロッドマンへの遠慮だったんだろうか。

そういう意味では、雪辱戦、といっても良いのが本作である。脚本には『ダイ・ハード』にも参加していたスティーブン・E・デスーザも名を連ね、これで面白くなるんじゃないかと期待して映画館に向かうわけだが、いやはや。これは辛い。これ、香港方式で脚本なんかないままなんとなく作っちゃったんじゃなんじゃないのか?舞台も香港だし。

小型爆弾をアメリカに輸出しようとしているロシアのテロリスト、阻止しようとしているCIA、香港の警察、謎の女、香港名物のぱちもの(=Knock Off) 輸出業者などと、いろいろな要素が突っ込まれているが、なんだか交通整理が出来ていない。仕掛け作りに凝ったのはよいが、明確な敵がなかなかわからないので、単純なアクション映画という意味では盛り上がらない。

そもそもヴァンダムが実業家っていうのが何かの間違いだったんじゃないか。また、コメディリリーフとしてロブ・シュナイダーが出演しているのだが、この2人、全く息が合っていないし、演出もコメディに振りたいのか、どっちにもっていきたいのか良く分からないのでスッキリしない。

アクション・シークエンスは良く組みたてられている。歯切れの良い編集も心地よい。が、ヴァンダムに老化現象が見られるような気がしてならない。体の動きやアクションの切れは、撮影や編集にも助けられて、大きく見劣りするほどでもないのだけれど、顔は明らかにふけてきているんじゃないか。90年代初期に比べると美しさに陰りがみられ、スターとしての輝きが失われつつある。噂されるドラッグの影響なのかと勘ぐりたくもなる。

ハリウッド進出作が2本連続で煮ても焼いても食えない出来栄えとなってしまったツイ・ハーク。ツイ・ハークはこのままヴァンダムともにキャリアを終えるつもりでなければ、何か新しい打開策を考える必要があるのではないか。全盛期には、そのスタイルがもっともアメリカ進出に向いているように思われた彼が、なぜにこんな苦戦を強いられているのかが結構不思議である。