8/17/1998

The Avengers

アベンジャーズ(☆)

日本では『おしゃれ(秘)探偵』として紹介されていた1961年から8年間も放送された英国製TVシリーズのリメイク。(マーベルのアメコミヒーローものではない。)60年代テイストがたっぷりの(おそらく近未来の)ロンドンを舞台に、英国の秘密諜報員コンビが気象コントロール装置を悪用して世界(・・・といってもとりあえずロンドン)を混乱に陥れる狂人に立ち向かう。主演はレイフ・ファインズ、ウマ・サーマン。悪役にショーン・コネリー。『ナショナル・ランプーンズ・クリスマスバケーション』などを手がけたジェレマイア・チェチック監督作品である。

最初は監督が凡庸なだけかと思って観ていた。いくら凡作・駄作といったって、普通は限度があるものだ。こんなに魅力的なキャストを揃えておいて、それなりに金もかかっているんだろうし、ダメ映画ならダメ映画なりに、平凡な盛り上がりを見せ、普通に終わるんだろうと、タカをくくっていたのが間違いだった。気がついてみれば最後まで盛り上がらない1時間半。なんなんだ、これは。唯一の救いはこの壊滅的な退屈さが2時間以上持続しないということだけだ。

素材はいくらでも面白くなりそうなのである。

スリーピースをきちんと着こなし、ぴかぴかの靴と帽子に、ステッキ代わりの傘まで持ち歩き、汗ひとつかかないようないでたちでアクションをこなすエージェントなんて、絵的に見ただけでも面白そうではないか。それを完璧な美男子レイフ・ファインズが演じているのだ。

ヒロインだって、あんなに観るに耐えなかった『バットマン&ロビン』のなかでも一人だけ輝いていたウマ・サーマンだ。主人公とコンビを組むだけでなく、ボンデージに身を包んだ悪役と2役を演じているんだ。

さらに、あのショーン・コネリーだ。スコティッシュな衣装に身を包み、悪役として大芝居を打つ。

見たくなるでしょ?期待したくもなるでしょ? 

で、土台になるTVシリーズがあるんだから、ゼロから作るわけじゃない。

それなのに、なぜ、フィルムが1巻抜けているのかと思うくらい出鱈目な映画になってしまうのか。むちゃくちゃな話運び、意味もなく登場して退場する登場人物たち、伏線になりそうなのになんにもならないネタ。テレビ東京名物の「お昼のロードショー」枠向けに1時間20分に切り刻まれた3時間の映画ですら、もっとまともなんじゃないか。

さもありなん、テスト試写の不評を受けて、115分から89分にカットされたんだそうだ。「フィルム1巻抜けてんじゃねーの疑惑」もまんざらではない。どおりで単にダメな映画というレベルを超えて、めちゃくちゃな映画になってしまっているはずだ。

これがどんなにヒドいシロモノか、確認するため以外にはオススメできない。くれぐれも、覚悟なしに見ないようにすべきである。しかしまあ、こんな映画を撮ってしまうと、2度と映画を撮らせてもらえなくなっちゃうんじゃないのかね。(1998/8)

8/10/1998

Snake Eyes

スネーク・アイズ(☆☆)

ニュージャージー州のアトランティック・シティは古くからの観光都市だが、ギャンブルが合法化されており、立ち並ぶカジノで知られている。ここで行われていたボクシングの大きな試合中、一万四千人の観客の中で国防長官が暗殺される事件が発生する。折からの悪天候の中、閉ざされたアリーナの中で地元の警官と警備責任者による犯人探しが始まる。主演はニコラス・ケイジとゲイリー・シニーズ。デイヴィッド・コープ脚本、ブライアン・デパルマ監督。

前作『ミッション・インポッシブル』では、魂が入っているとまではいえなくとも、要所要所で息を飲むサスペンスと観客を翻弄する映像マジックを披露してくれた鬼才ブライアン・デパルマの新作である。

仕掛け的には大変面白い作品である。物語の舞台をアリーナと、そこにつながったカジノホテルの中に限定。およそ2時間の上映時間と、作品の中での時間の流れを概ね一致させているのである。リアルタイムで進行する映画というのは、あのヒッチコックも『ロープ』で試みていたように、過去に例がないわけではないのだが、やはり手法としては実験的といえる部類だろう。

映像も面白い。冒頭、いきなりどうやって撮影したのかとびっくりするような15分に及ぼうかいう臨場感たっぷりの長回し幕を開ける。本当に長回しなのかどうかは疑わしいのだが、とにかくこれが映像マジックという先制パンチだ。また、事件の瞬間を、様々な証言者の立場から幾度も違ったアングル、違った証言内容で映像化して見せ、観客を翻弄する。スプリット画面やら、監視カメラのマルチ映像やら、これでもかという持ちネタ総動員でお腹がいっぱいになる事請け合いである。

それにしても、内容は空疎だ。デ・パルマがどれほど魔術をかけようとも、ニコラス・ケイジがどれほどオーバーアクトで頑張ろうとも、どうにも盛り上がらないのは脚本のせいだろう。あまりにも早く正体を現す犯人。聞き飽きた動機。面白そうな設定、仕掛け、キャラクター、どれひとつ物語の中で活きてこない。全ては壮大な空騒ぎである。

デイヴィッド・コープは確かに売れっ子脚本家である。代表作は『ジュラシック・パーク』。デ・パルマとは、前作『ミッション・インポッシブル』で組んでいる。が、船頭多くしてとっちらかってしまった大作の脚本をそつなくかたちにするのが得意なだけの脚本家ではないか、と疑いの眼でかかったほうが良い名前だと思っている。要注意。

坂本龍一が音楽を担当しているが、なぜ坂本だったのか、いまだに良くわからない。ピノ・ドナジオ風に書いてみましたといった感じは特に面白くもなかった。(1998/8)