9/07/2010

The Hangover

ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い (☆☆☆★)

2009 のスリーパー・ヒットとなった低予算コメディ映画が紆余曲折あってようやく日本上陸。当初未公開でパッケージソフト化の予定だったが、ファンの署名による上映嘆願で公開が決定。都内、当初はシネセゾン渋谷・新宿武蔵野館で申し訳程度にスタートしたが、8月末より突如として東急系3館にも登場。なんと、予想だにせぬことながら、老舗基幹大劇場・意味不明に豪華なシャンデリアで有名な丸の内ルーブルで上映されるという前代未聞の自体になった。まあ、『キャッツ&ドッグス地球最大の肉球大戦争』が不入りだったとか、そんな理由なんだろうけどさ。

結婚式を間近に控えた男とその友人、婚約者の弟が連れ立って、ラスベガスで馬鹿騒ぎの一晩を過ごそうとするのだが、ホテルで目が覚めてみるとひどい二日酔いのうえに全員そろって記憶がない。部屋の中はめちゃくちゃで、新郎は行方不明。結婚式に間に合うように新郎を見つけ出し、連れ帰るためにわずかな手がかりをもとに昨晩の足取りをたどっていくことになる、という話。

結婚前の男とその友達が繰り広げるバチェラー・パーティの乱痴気騒ぎや、その予期せぬ顛末を描いたコメディは目新しいものではなく、比較的、お馴染みのモチーフといえる。本作が新しいとしたら、それは、乱痴気騒ぎのドタバタそのものをすっとばし、乱痴気騒ぎの記憶を失った登場人物らが残されたみょうちきりんな手がかりをもとにして不覚の一晩に何が起こったのかを探し求めて右往左往するという、「謎解き」で興味を引っ張るクレバーな構成である。時間軸に沿ってストレートに構成したら単なる下劣な狂騒でしかない話を、正気に戻った登場人物が何も知らない観客と共に「再発見」していくというアイディアによって、改めてストーリーテリングの妙を楽しめる作品になった。

もちろん、ことが明らかになってみれば、その程度のことか、と、コメディとしては意外性に欠けるんじゃないか、と見る向きもあるだろう。しかし、リアルに考えると正直、勘弁願いたい出来事ばかりでもある。うまいなぁ、と思うのは、ここらあたりのさじ加減で、絶対ないんだけど、リアルに起こりうる範囲を大きく逸脱するのではなく、しかも、絶対あってほしくない感じという微妙なラインを行ったり来たりするところが絶妙なバランスだ。

そもそも、登場人物たちにはコメディ的な誇張もあるが、基本的には「生身の人間」としてのリアリティから乖離しないキャラクター作りになっている。目が覚めて、正気に戻った登場人物らの本気の狼狽ぶりには、笑いながらも同情し、自分がその場にいたら、自分がその当人だったら嫌だなぁ、と感情移入しながらみることができるのが本作の良いところである。そういう意味で、映画の中で起こる(起こったとされる)事件の数々に、ぎりぎりのところでの、可能性レベルでなら信じられる程度のリアリティがあるのは重要なことである。

ストーリーテリングの手法は(コメディとしては)斬新であったが、手掛りを追っていき、それ以上の展開に行き詰ると都合よく何かイベントが起こって次に進むという、ある種の「パターン」に頼りすぎているところが少し単調ではある。最近よく見る顔の一人だったブラッドリー・クーパーは、本作で間違いなく人気スターへの道筋を確実なものにしただろう。「顔はハンサムだけど、個性に欠けて薄口な添え物」的なポジションはそろそろ卒業だ。