1/17/2010

Surrogates

サロゲート(☆☆☆)


SFi 映画はヴィジュアルが命である。思うに、この作品はそのヴィジュアルを作り上げるだけの金がなかったか、監督がそちら方面に興味がないかのどちらかなのだろうと邪推する。8000万ドル級の(中規模)予算では正直、たいしたことができないご時勢である。しかし、曲がりなりにも近未来の設定で、街を走っている車が全部、現行モデル(やそれより古い)車っていうのはどうなのか。端的にいえば、これが本作の致命的な弱みの象徴だ。

「身代わりロボット」が普及した近未来のボストン近郊を舞台に、ブルース・ウィリス演ずる刑事が殺人事件を追う。タイトルとなっている「サロゲート(Surrogate)」は、代理、代用の意を持つ。時期的に見て、製作中だった"Avatar" に触発されての企画なんだろう。しかし、「遠隔操作する身代わり」というモチーフこそ似ているが、作品の方向性は全く異なる。興行的に大成功を収めているあちらの作品では、最新のテクノロジーによってまるごとひとつの世界を創造してみせるわけだが、ストーリーとしては古典的な物語を焼きなおしているだけだ。それに対する本作は、気取らない娯楽アクションの体裁で、致命的なほどに安っぽいヴィジュアルながらも SFi 的モチーフがもたらす特異なシチュエーションやドラマに焦点を当てている。

本作の監督、ジョナサン・モストウは、映画好きならば『ブレーキ・ダウン』や『U-571』で新鋭として期待を持った名前であろう。敢えて火中の栗を拾った『ターミネーター3』が不評をかこったためなのか、これが劇場用監督作としては久々の新作ということになる。先に指摘したようにヴィジュアル面は情けないくらいにプアなので、それ自体が作品評価を下げるのは致し方あるまい。しかし、タイトにまとまった89分に、SF的なアイディアと社会風刺、哲学的な問いかけ、夫婦のドラマなどがさりげなく織り込んだ職人的な手際の良さは評価されてもいい。古くからのブルース・ウィリス好きとして、サロゲートとしての彼の姿が、若いころのままであるところがものすごく感慨深い。いつの間にか時は流れているものだね。

冒頭、ニュース・リールを使って一気に設定と状況を説明しようという手口は、尺の短い娯楽映画としては手際のよいやり口である。深読みすると、これは近未来の話ではなく、どこかで分岐したもうひとつの世界とも考えられる作りになっていて、先に槍玉にあげた「現行モデルの車」が走っているのは、それが理由かもしれない。だが、いくらパラレルワールドといっても、この「サロゲート」の普及を全世界の98%などと大風呂敷を広げるから嘘っぽくなる。しかも、「世界」といっておきながらボストン近郊しか映像にして見せられないのだから、かえってしょぼくれている。いっそ、北米の大都市圏を中心とした流行、くらいにしておいた方がよかっただろう。また、ここまで徹底した「サロゲート社会」が、実際問題どのように機能しているのか、ストーリーの中で説得力をもって見せ切れていないのは脚本の課題だろうか。ドラえもんの「もしもボックス」噺の方が、(ナンセンス漫画とはいえ)むしろそのあたりがよく考えられていたりする。

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