7/20/2009

Harry Potter and the Half Blood Prince

ハリー・ポッターと謎のプリンス(☆☆)

昨年は『ダークナイト』の超特大ヒットで十分に潤ったワーナーブラザーズが、脚本家ストの影響で弱くなった翌夏のラインナップを補強したいという身勝手なビジネス上の理由のみで公開を先送りにされ、ファンをイライラさせたシリーズ最新作である。

考えてみれば、これは原作が完結したあと最初にリリースされた映画版、ということになる。もちろん、製作準備はは完結巻の発売前から始まっているとはいえ、原作者とのやり取りなどを通じ、最終巻の展開を踏まえた脚色が可能だった最初の作品、ということになる。また、前作からシリーズの舵取りを託されたデイヴィッド・イェーツ監督は、完結巻2部作も引き続き手掛けることが確定しており、その意味においても続く2本の作品を見据えた構成を念頭に置いたことであろう。

普通なら、そういう要素は作品に対してプラスに作用しそうなものだと思う。だいたい、これまでの作品はどこを刈り込んだら良いのか判断が難しく、メリハリの乏しい総花的な動く挿絵集(1, 2) になるか、細部の豊かさや楽しいところを全部刈り込んでしまいその巻のメインプロットをこなすだけのやせ細った凡作(3, 5)になるかのどちらかになっていたし、逆に言えば、観客としてもそれ以上のものを要求しようとは思いもしなかったところがある。ある意味で、今回はそれを脱却する上でまたとない、恵まれた状況にあるはずなのである。しかし、その結果は、残念ながらマイナスに働いている、としか思えない。

本作を1本の作品としてある程度の独立性を重んじるのであれば、本来、タイトルにもなっている「謎のプリンス」にまつわるプロットを中心に置くべきであろうが、この作り手はそれを本筋とは離れた「脇道」と考えたのか、その扱いが非常に軽いものにした。当然というべきか、必然というべきか、1本の作品としての軸を失った本作は、本当のクライマックスを前にして今しか挿入のタイミングがないに違いない「能天気な学園恋愛コメディ」と、最終2部作への伏線でしかない不穏でダークな前振りが分裂症気味に同居するまとまりのない作品になってしまっている。もともと派手な見せ場を欠くのがこの巻の特徴ではあるが、やり方次第でクライマックスはもっと派手に盛り上げられたはず。しかし、最終2部作との住み分けを踏まえてのことか、スケール感に乏しい地味な展開に終始するばかりだからフラストレーションが溜まる。まあ、想像した範疇とはいえると思うのだが、本作は結局のところ、地味な中継ぎというのか、次回作に向けた壮大な予告編という存在から一歩たりとも逸脱しようとしないのである。これでは、さすがに退屈だ。

主演の少年・少女俳優たちは立派な若者へと成長し、最終2部作への準備も整ったな、と思わせるものがある。華やかな英国名優辞典と化したシリーズではあるが、今回はジム・ブロードベントが加わって怪演を披露、確かに、毎度毎度のゲスト・キャラクターの存在は、シリーズに新鮮味をもたらす効果があることを再確認できた。一方、少年・少女の成長に合わせて(当たり前のことであるが)レギュラー陣の疲れと老化が目立ってきており、まあ、無理のないいい具合のところで完結を迎えることができるかどうか、あと少し、キャストの無事と健康を祈りたい。

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