11/06/2010

Brooklyn's Finest

クロッシング(☆☆☆)


北朝鮮を描いた壮絶な人間ドラマ、じゃないほうのやつ。アントワン・フークアの野心作、"Brooklyn's Finest" である。

リチャード・ギアが珍しい役をやっている。ブルックリンの警官。制服組で定年間近。厭世感たっぷりでやる気もなく、トラブルの現場も見てみぬふり。ただただ面倒を避けて勤めを終え、チャイナタウンで馴染みの娼婦を抱く。コンビを組まされた若い警官にも愛想をつかされる始末だが、あることをきっかけに、彼の心の中が少しだけ動く。無事に引退の日を迎えバッジを外したギアだったが、偶然、行方不明として捜索願の出ていた女性が薬漬けにされ、どこかに運ばれる現場に出くわす。

同じ警察署には、身重で喘息持ちの妻や子供たちのために引越しを望んでいながら金の算段がつかないイーサン・ホークがいる。無理を云って契約した物件に対する手付の期限が迫っているが、警官の安給料ではまとまった金を作るのは難しい。焦燥したホークは殺人・強盗も厭わず、捜査現場からのドラッグ・マネーの横領を画策する。

また、この管轄の犯罪組織に潜入捜査をしている男、ドン・チードルがいる。長年の潜入捜査により、家庭は崩壊してしまった。そろそろ捜査から上がりたいと望む男だったが、警官の不祥事による失点をカバーするため目立つ実績作りに躍起のFBI(エレン・バーキン)や上層部(ウィル・パットン)から、男の命の恩人でもある犯罪組織の主導者(ウェズリー・スナイプス)を偽の取引きに誘い込むよう指令を下される。板挟みで悩み苦しむチードルだったが、彼を信用しきったスナイプスに取引を持ちかける。

三者三様の物語が、犯罪の巣窟と化した大規模公営住宅を中心に展開される。並行して語られる3つの物語は最後の最後になって一瞬だけすれ違うが、絡み合うことはない。邦題、クロッシングは、3人がどこかで交差するとでもいいたいのだろうが、ちょっと微妙だ。(「裏切り」かとも思ったが、違うんだな。)

出口のない街で繰り広げられる、ビターな物語を、まさにそのまま重苦しく真面目に描いて、アントワン・フークアの力の入りようはよくわかる。ヒーローとしての警官ものではなく、娯楽映画としてのファンタジーでなく、ドラマの中で幾度となく登場した「典型」をより現実に引き寄せ、一面的ではないキャラクターとして肉付けし、ドラマとして再構築しようとする試みである。が、3人の物語が並行して描かれるばかりで一つの物語として絡み合っていかないため、それぞれが、そこそこに面白いとはいっても、結局のところ重いくせに薄味で満足感が足りない。結論のでない答えを考えさせられて疲労し、スッキリしない。クロスしない3つの物語に132分は、ちと長いだろう。

あるいは、個人的事情から悪徳警官に落ちていったイーサン・ホーク、厳しい潜入捜査に耐え、上層部の勝手に振り回されながら個人としての正義を貫こうとする(ある意味での)ヒーローであるドン・チードルが、物語の定石どおりの結末を迎えざるを得ないのに対し、そうしたものと無縁でやってきたリチャード・ギアが本作における予期せぬヒーローとして物語を静かに締め括る役割を担っていることから、表面で語られているストーリーとは別に、単に皮肉というのでもなく、そういう物語の構図や構造から何かを読み解くことが期待されているのかもしれないと思ってみたりもする。そうだとするのなら、アントワン・フークアの野心はともかくとして、力量がちょっと足りないんじゃないだろうか。作り手自体が、物語の構造よりも、物語の中で起こる出来事に興味を引きずられているように思う。

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