1/10/2011

Unstoppable

アンストッパブル(☆☆☆★)

危険な貨物を積載して無人で暴走する巨大な貨物列車を止める。その一点だ。そこに焦点を絞り込んで99分の尺にまとめあげられた本作は、あまり立派な映画にしようと欲張るのではなく、分相応というのか、そのシンプルな作りが大きな魅力である。『トップガン』から数えて25年も娯楽映画の第一線を走ってきたトニー・スコットが、悪い手癖ともいえるぐちゃぐちゃ映像加工とガチャガチャ編集を抑え(気味にし)て「走る巨大な鉄の塊」とそれを止めようとする男たちを描く、スリルと迫力の好編である。

描かれる事件の発端はいかにもありそうな現場の怠惰である。いくつかの偶然が重なって人間の手を逃れてゆっくりと走り始めた巨大な貨物列車は次第にスピードを増し、手がつけられない状態になっていく。本社主導で実行される対策は次々と失敗。たまたま本線上に居合わせたベテラン機関士らがとっさの機転で貨物列車を追う。行く手に高速では絶対に曲がりきれない大きなカーブと、愛する家族らの暮らす町が迫ってくる。止められるか。間に合うのか。

真実から生まれた、などと(敢えて誤解を呼ぶ表現で)宣伝されている本作だが、2001年にオハイオ州で発生したCSX8888号暴走事故に着想を得(inspired by true events)た「フィクション」である。事故そのものは比較的有名で、日本でもTV番組などでも紹介されたことがあるそうだ。その事件をそのまま映画化したのではなく、舞台を近隣のペンシルバニア州に移しているほか、全般的に映画的な(=手に汗握る)誇張と脚色が加えられている。

この映画の主役はともかく「列車」だ。全てを蹴ちらして走り続ける貨物列車は、ある意味で『激突』のトレーラーにも似た不気味さとふてぶてしさで、走り出す前から不穏な佇まいを印象付ける。40両近くをつないだ全長800メートルを越えるこの貨物列車の巨大感、重量感、圧倒的なパワーを感じさせるため、ありとあらゆるアングルから捉えた映像をテンポよくつないで見せていくあたりはトニー・スコットの真骨頂といったところ、なによりもこれが見所である。米映画ならではのすごい効果音、音響効果も相まって、これを劇場で見ずして何を見るのか、といいたい迫力の仕上がり。もともと横に長くのびる列車という題材は、横に画面の長い映画というフォーマットと相性が良いのだけれど、本作はそのことを改めて教えてくれるだろう。

それにくらべると、人間側の描写には重みが置かれていない。そのかわり、限られた出演時間のなかでもキャラクターを的確に表現できるいいキャスティングで、実際に描かれていること以上を感じさせる「省エネ」演出になっている。ドラマ部分にも変な水増しがない。主演の2人の関係も、大きくは「対立から信頼」という定番に沿ってはいるものの、どちらかといえば、プロとして目的を達するため、個人的な立場を越えた協力関係を築くというイメージに近い。家族にまつわるエピソードも、あざとく涙を絞るためではなく、主人公等の行動の動機を補強するために用意されているくらいのものだ。ドラマ面での厚みを求めると肩透かしを食らうかもしれないが、それこそが本作の良さだという立場をとりたい。

鉄道の路線、管制システムなども含めた大きな仕組みのなかで右往左往する人間といった構図を、複数視点を切り替えながらテンポよく作り上げ、TVのニュース中継を効果的に利用しつつ、状況や位置関係を的確に説明していく話運びもスムーズ。列車の脱線炎上や、警察車両のクラッシュも期待に違わず登場する。笑っちゃいけない、それが分相応の娯楽映画のお約束であり、心意気。トニー・スコットには、こういう映画をコンスタントに撮り続けてもらいたいね。

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