5/21/2011

Letters to Juliette

ジュリエットへの手紙(☆☆☆)


新婚(婚前)旅行でイタリア・ヴェローナを訪れた主人公が、旅先で出会った男と恋におちて婚約者を捨てる話、と書くと身も蓋もないな。まあ、ちょくちょくでてくる女性客目当ての「お気楽観光・自分探し・恋愛映画」である。ついでにいうと、少しだけキャリアアップ・ネタも混ぜてきた。主人公が男目線での魅力にかける役を得意としているアマンダ・セイフライド。

・・・とここまでなら、この映画なんの魅力もない。しかし、この映画、ちょっと面白い。風光明媚な異国で自分探しをしたり、食べたり飲んだり祈ったりいるだけではなくて、なかなか魅力的なサブプロットがあり、むしろそれがメインの座におさまっているようにすらみえる。かつての想い人を探して一言謝罪をしたいという老女の物語だ。

映画のタイトルにもなっている「ジュリエットへの手紙」。ヴェローナといえば、「ロミオとジュリエット」の舞台となった土地であるのはご存知のことだろう。そこに観光ポイント「ジュリエットの家」があるという。このスポットを訪れる人々が、恋の悩みやらなにやらを綴ったジュリエット宛の悩み相談手紙を残していくと、「ジュリエットの秘書」を名乗る地元の人々がその手紙を回収し、ボランティア的に手紙への返事を書いている、というのがこの映画でのお話しである。

開店を控えたレストランの仕入れ先業者やらワインのオークションやらに忙殺されている婚約者に放置された(・・・といえば主人公目線だが、婚約者の人生の一大事に付き合おうともしない)主人公が、ジュリエットの家の壁の隙間に残されていた50年前の手紙に返事を書く。ライター志望だけあって、なかなか良い文章だったのだろう、手紙に触発された、いまは英国に住む老女が、かつての想い人を捜して自分の裏切りを詫びたいと、世話役の孫息子を連れてヴェローナにやってくるのである。タイトルは『ジュリエットへの手紙』だが、主人公が書いた「ジュリエットからの手紙」が、老女の運命の恋と、その孫と主人公とのあいだの現在進行形の関係を結びつけていく。

この映画、ともかく、老女を演じている大ベテラン、ヴァネッサ・レッドグレイブの魅力に尽きる、のではないか。映像で語られることのないキャラクターの歴史を見事に感じさせる名演。自分に世話をやく孫と、主人公との関係をさり気無く気づかう余裕。恋する少女そのものにしかみえない愛らしさ、眼の奥の深い哀しみと、時々宿る茶目っ気のあるユーモア。そして恥じらい。相手を捜し歩く過程で出会う(いかにもそれらしい)イタリア親爺たちの表情も自然体で魅力的なのだが、彼らを相手にしながら、時には上手にあしらいながら、また自分の求める人ではなかったと、顔では笑い、心で落胆する。

最初に指摘したようなありがちな女性向けエクスプロイテーション映画の枠組みを使いながら、もうひとつの、違った物語を語ってみせるというアイディアがこの映画の良いところであるが、形式的にメインとなる主人公の恋模様のほうはあまりうまく描けているとは思わない。主人公の婚約者を一方的に悪く見えるように描くのもフェアじゃないし。しかしまあ、それがメインの映画はないのだと割り切れば、観終わったあとで幸せな気分になれる佳作である。

ゲイリー・ウィニックはケイト・ハドソン、アン・ハサウェイ共演の『ブライダル・ウォーズ(Bride Wars)』などの監督。1961年生まれだというのに、今年2月に亡くなっている。hn

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