5/15/2011

Unknown

アンノウン(☆☆☆)


リーアム・ニーソン主演という観点でみれば、あの快作『96時間 (Taken)』に続く「欧州舞台の軽量アクション娯楽作路線」に位置づけても良さそうな作品なので、勝手に関連付けてしまいがちだ。しかし、この作品の製作会社はリュック・ベッソン率いるヨーロッパ・コープではなく、なんとなんと、ダークキャッスルなのであった。映画を見てみると、ベッソン関連作にありがちな「米娯楽映画を模倣している」ことに起因する「なんちゃって」な感じがないし、脚本軽視の仏製香港映画臭もなく、たしかに風格のある仕上がりだ。ダークキャッスルで風格というのもどうかと思うが。

そういえば最近のダークキャッスルは路線転換してるのかな、なんて思ったのが異色のサスペンスミステリー『エスター』の時だっただろうか。本作の監督は、いまやダークキャッスル人脈では一番の出世頭だと思えてくるジャウム・コレット・セラなのであった。なるほどね。

ベルリンを舞台にして、ある出来事をきっかけとして自分の記憶(主張)と周囲の記憶(主張)が噛み合わなくなった主人公が、自分という存在を証明すべく奔走する話である。旅先で事故に会い、病院で目が覚める。外出許可をとってホテルに戻ると妻は自分を知らないという。自分と同じ名の別人がいて、それが「夫」だという。その男は自分でしか知りえないようなことも知っている。自らを証明する手段も、手がかりもない。

こうしたパターンの話は幾度となく描かれてきて、オチの種類も多様である。なにかの陰謀か、宇宙人の実験か、仮想現実か、模造記憶か、実は死んでいるんだとか、死ぬ直前に見た悪夢だとか。あんまりいろんなコトを想像しながら見ていると、なんだ、案外普通だったね、なんてことになりそうなのが本作であるが、あくまでベルリンという街を舞台にしたサスペンス・アクションであるというジャンルから逸脱せず、きっちり風呂敷をたたんでみせるあたりが、大変好印象である。豪快なカー・アクションもあるかと思えば、ベテラン同士の息詰まる演技合戦もある。肉体的アクションもあれば、観光要素もあるといった具合に、気づいてみれば意外に盛り沢山の要素をバランスよくまとめている手腕もなかなかだ。

リーアム・ニーソンはその巨体を持て余してどこにいても居心地が悪そうな風が本作にぴったりである。勝手分からぬ外国で右往左往するさまと、その体躯に秘められたポテンシャルの落差もいい。今回の共演はダイアン・クルーガー、不法移民のタクシー運転手の役だが、リーアム・ニーソンと比べると実際以上に小柄に見えることもあって、可愛らしさが出た。このひと、美人売りをするより、こういう役のほうが魅力的に見えるような気がする。元東独の秘密警察役として登場するブルーノ・ガンツとフランク・ランジェラの大ベテラン同士の演技対決はゾクゾクする見せ場。これだけで映画の格がひとつ上がったんじゃないかという気がする。

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