11/13/2011

Love Strikes! (モテキ)

モテキ(☆☆☆★)


公開から随分間が開いてしまったが、ようやく見ることができた。原作(知らなかった)、テレビドラマ(気になっていた)共に未見だが、楽しく見られた。いや、実際のところ、これ、サプライズ・ヒットを飛ばしたからということだけでなく、今年の邦画を代表する何本かを選ぶなら、そのなかに選ばれてしかるべき1本ではなかろうか。だって、こんな映画、こんな主人公、こんな演出、他の国で考えられるか?

もちろん、大震災と史上最悪の原発事故を経験したこの国の、今年を代表する1本がこれっていうのもなんだとは思うけれど、そういうある種の恥ずかしさも込みにして、今日の日本が生み出せる、日本ならではの「オリジナリティ」って、こういうものなのではないのか、と思い、感心し、面白がっている。

この映画は自由だ。あるいは、テレビ東京の深夜ドラマ枠という出自がそうさせるのかもしれないが、「平均点的に誰もにウけるもの」でなくてもいい、分かる人に分かれば良く、楽しめる人に楽しんでもらえばいい、とでもいうような、潔い割り切りが感じられる。サブカルネタの取り込みや言及もそう。ある種の下品さだってそう。Twitter の使い方もそう。マンガ的(というかアニメ的)で過剰なモノローグもそう。前代未聞レベルで凝りに凝ったエンドクレジットもそうだ。

妄想的な美女神輿のオープニング。米国映画が得意とするミュージカル演出を(おそらく『(500)日のサマー』経由で)臆面もなくイタダくかと思えば、Perfume 本人たちまで登場の大盤振る舞いで映画館をイベント会場に変えたかと思えば、大江千里で突如映画館の大スクリーンがカラオケに変貌する仰天演出。曲を流し出したら、テンポやバランスを後回しにしてまでキリの良いところまで丸まる流してみせる。こういうデタラメさ加減の、なんという楽しさよ。

しかし、この映画はそういう意匠の新しさだけを売り物にした作品ではない。コメディとして笑える、ということだけでもない。結局、映画の中で描かれている不器用なキャラクターたちの切ない心象風景を、格好の悪い恋愛模様のドラマをきちんと語ってみせることができているから、映画として成立しているのだ。そして、そんな恋愛模様のどこかに、観客自身が思い当たるものがあるから、共感できる何かを見出すことができるから、心を打つ映画足りえているのだと思う。

類型的で表層的にみえる登場人物たちには、もちろん、コミック的な誇張もあるけれど、今この時代を生きているリアルな人間の香りがし、親近感を抱くことができる。そして、それを演じているキャストが、そういうキャラクターたちをしっかりと掴んでいるところがなお素晴らしい。

本作筆頭のヒロインにキャスティングされた長澤まさみの破壊力はいうまでもないことだが、彼女の存在がいかに反則的であるかを分かっている人間がキャスティングをし、演出しなければこうはならないだろう。絵に描いたような夢のガールフレンド役としてだけでなく、その裏側にある焦りや悩み、不安や弱さをきちんと見せて完璧。一時期の低迷はなんだったのか。

第2のヒロインである麻生久美子も好演なら、飛び道具扱いの仲里依紗、真木よう子も、役割をよく自覚している。飄々としたリリー・フランキーの面白さ。金子ノブアキの悪役ぶり。もちろん、主演たる森山未來は、格好悪くて面倒くさい主人公のキャラクターを完全にモノにしていて、意外にも、その身体能力の高さが透けて見えて感心した。

こうなると、ドラマ版を見損なっていたのが実に惜しい。が、だからといってこの映画を見ないのはもったいない。独立した作品として、十分に完成した力作である。

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