9/11/1998

Rush Hour

ラッシュアワー(☆☆☆)

ジャッキー・チェン主演最新作。それも、ただの主演作ではない。『レッド・ブロンクス』、『ファイナル・プロジェクト』のスマッシュヒットを受けて、過去に何度も挑み続けたハリウッド進出を実現させた挨拶がわりの1作だ。さて、どんな仕上がりになっているかとともかく劇場に駆けつけた。

在米中国大使の娘が誘拐された。早速FBIが解決に向け動き出すが、大使が個人的に絶大な信頼を置く香港の警官を、助っ人として招くことを主張。面倒に思ったFBIは、地元警察(LAPD)に来客の世話係を依頼するのだが、チームプレイに徹しない口先ばかり達者な刑事が厄介払いにちょうどいいとばかりにその任にあてがわれる。裏事情を知らぬ珍コンビが事件解決に向け奮闘する、という話。そのLAPDの刑事役が、ここのところアクション・コメディで存在感を出しつつあるクリス・タッカー。

まあ、なぜだか知らないが、米国のビデオ屋では、カンフー映画の棚で熱心にタイトルを物色している黒人のニイちゃん、という光景は、なんとなくよくある風景の一つという気がするのである。

『48時間』などに代表されるハリウッドお得意の「珍コンビ」モノを応用し、英語があまり得意でないジャッキー・チェンに、喋りのクリス・タッカーを組ませるという発想。アクション一辺倒ではなく、ウケの良い「アクション・コメディ」というパッケージング。そのことで、主たるターゲットになりそうな有色人種系の観客層をがっちり取り込もうというマーケティング的な目配り。さすがハリウッド娯楽映画工場といったところだろう。

クリス・タッカー出演作品で世に出てきたブラット・ラトナーという監督の人選が物語るように、コメディ色の強い作風になっている。だいたい、ハリウッドでの映画作りでは主演俳優に無理をさせると保険会社が怒るので、ジャッキーが思うようにアクションをできないという話もきく。それに、ジャッキー自身も全盛期を過ぎているのは事実だ。

だが、ジャッキー・チェンといえば、体を張ったドタバタができる現代最高のコメディアンだと言っても過言ではない。小道具を器用に活かしたコミカルなアクションの組み立ては他の追随を許さないものがあって、例えばプールバーでは椅子やスティックを使った素晴らしいアクションを披露して笑わせてもくれるし、クライマックスは国宝級(という設定の)の壷のまわりで、壷が落ちて割れるのを防ぎつつ、数人の敵を相手にする見事な立ちまわりで、観客をハラハラさせながら気がつくと笑いを取っている。

クリス・タッカーが笑いを、ジャッキーがアクションを担当しているように見えて、実のところジャッキーが両方オイシイところをさらっているのは気のせいではない。そんな意味で、いろいろな制約があるハリウッドにおける映画作りでも、こんなかたちでジャッキーの魅力を出していくことができるんだという、お手本としては、本作の価値は低くない。

ジャッキー映画といえば、エンドクレジットのお馴染みNGフィルムの大公開。期待してまっていたら、ハリウッド映画といえこれをきちんとやってくれたのが嬉しい。わかっているじゃないか。ただしあまり痛々しいフッテージがなかったということと、ジャッキーだけでなくクリス・タッカーのNGも均等に公開されていて、ジャッキーのワンマン映画ではないことをつくづく思い知らされもするのであった。

ああ、あと、クリス・タッカー出演作品を撮って本作につなげてきたブレット・ラトナーという男、案外、分かってるんじゃないのと思わせるのは、音楽に『燃えよドラゴン』も有名な、ラロ・シフリンを起用してきたことである。それを含め、音の面では香港時代のジャッキー映画と比べ、かなりゴージャスな仕上がりになっているのがちょっと嬉しいポイントだったりする。

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