1/08/1999

A Simple Plan

シンプル・プラン(☆☆☆☆★)

雪降り積もる田舎町で偶然犯罪がらみと思われる400万ドルもの大金を発見した3人の男たち。探している人がいるのかどうか明らかになるまで暫くのいあだ保管して、なにもなければ山分けして町を出ようという「簡単な計画」のはずだったが、それは死体が次々転がる惨事の幕開けとなるのだった。

天性のストーリーテラーと絶賛されてベストセラーとなったスコット・スミスの原作を、著者自らが脚色したクライム・スリラーである。監督は、マカロニウエスタン風の『クイック&デッド』以来3年ぶりの新作となるサム・ライミ。次第に人生を狂わせていく主人公を演じるのはビル・パクストン、その妻をブリジッド・フォンダ、頭の回転がノロいが悪意のない兄をビリー・ボブ・ソーントンが演じている。

後味は悪い。とても意地の悪い幕切れなので、好き嫌いは分かれるだろう。でもこの映画には大興奮させられた。あのサム・ライミが、こんな映画を撮れるんだ!という驚きもあるけれど、掛け値なしに一級品の傑作であると思う。

「雪に閉ざされた田舎町」、「狂う計画」、「意味のない殺人、転がる死体」、「やりきれない幕切れ」という物語の鍵を並べていくと、コーエン兄弟の傑作、『ファーゴ』との類似性に気付かされる。そういえば、サム・ライミとコーエン兄弟といえば、かつて、サム・ライミが監督した『XYZマーダーズ(Crimewave)』の脚本がコーエン兄弟、という縁があったっけな。

しかし、類似性は表面的なものだけで、映画としては全く異なるテイストのものになっている。なにせ、コーエン兄弟の『ファーゴ』は、あのように相当「えぐい」内容を描いていても、終始客観的で冷徹な視点が保たれていて、洗練されたブラック・コメディの趣すらあったのに対して、本作は、当事者意識に基づく濃密な心理劇になっているのである。

え、濃密な心理劇?ライミが?

いや、誰もがびっくりするに違いない。だいたい、ライミといえば、極端なアングルだったり、豪快な主観カメラによる撮影など、個性的でむちゃくちゃなスタイルがトレードマークのようなもので、そうした技巧による特徴的なヴィジュアルによって「目で見せる」タイプの作家だという思い込みがあるからね。

しかし、今回のライミの演出は、ひと味も二味も違う。

じっくりと腰を据えて、容赦なく、登場人物の脂っこく生々しいところ、人間の「生態」とべきいうものを炙り出していく異様なまでの迫力。例えていうなら、曲者ビリー・ボブ・ソーントンの脂汗の匂いや、ブリジッド・フォンダの胸のうちに秘めた語られざる不満や欲望。そういった眼に見えないものまで、フィルムに焼き付いているのではないかというような。

究極の選択を迫られた登場人物たちの心理に深く踏み込んでいき、その息苦しいまでの心理状態を観客に体験させんとする「大人のライミ」。ここぞという瞬間まで自らのトレードマークを封印し、技巧に走らず、役者の演技でドラマを語ってみせるのだ。こんな映画が撮れるなら、いったい、この先どんな映画を見せてくれるようになるのか。いやはや、恐るべき才能の持ち主だ。

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