1/15/1999

The Thin Red Line

シン・レッド・ライン(☆☆★)

「伝説の監督」とまでいわれるテレンス・マリック監督が、20年ぶりにメガホンを撮ったことで話題になっている1本である。そんなこともあって、下手に評するのがはばかられるような雰囲気だが、個人的な思いとしては、つまらない映画だという感情を拭いがたい。

テレンス・マリックの映画はこれが初めてなので、まあ、そういう人間が感じることとして聞いて欲しい。

題材は、太平洋戦争における日本軍と米軍の激戦地、ガタルカナルである。形式的にはジェームス・ジョーンズによる原作の2度目の映画化にあたるのだそうだ。ニック・ノルティ、ジム・カヴィーゼル、ショーン・ペン、ジョン・キューザック、エイドリアン・ブロディ、ウディ・ハレルソン、ジョン・C・ライリー、ジェレッド・レト、ジョージ・クルーニー、ニック・スタール、ジョン・トラボルタ等々、名と顔の知れた俳優が大挙して出演している。

第二次世界大戦ものといえば、昨夏、スピルバーグの『プライベート・ライアン』があって、戦場描写を一変させたことが記憶に新しい。太平洋戦線を舞台にして、豪華なキャストが出演し、いったい何がどのように描かれるのか、大方の興味はそこにあったのだと思う。

しかし、スクリーンに映し出されたのは、普通に想像する「戦争映画」とは全く異なるもので、そういうジャンルの中では比較のしようがない、比較の意味がない作品であった。

映画は、過酷な戦場で死と隣り合わせの日常を送る兵士たちの姿を描いてはいる。戦う意味すら見つけられずに彷徨う彼らの心情が、それぞれのモノローグでかぶせられていく。そこには神の視点から切り取られたような、手を触れることのできない距離感がある。戦場とは思えないような美しい自然描写と静けさ。その中に埋もれていく小さな存在としての人間。

ドラマらしきドラマはない。あるいは、一応のプロットはあるものの、それを分かりやすく描くことに興味がない。わざと分かり難くしているのかもしれないが、いずれ、それが意味を持っている作品ではない。

スターが出ているのに、まるで兵士の無名性にこだわるように、数シーンだけで早々と退場したり、顔見せ程度の扱いであったりして、画面をただただ通り過ぎていく。もちろん、伝説の監督と仕事をしたいと志願する役者たちがいて、資金集めに有利だからと出演をさせるのは理解できる。しかし、作品の狙いとそういう否が応でも観客の目を引いてしまう「スター」の存在が相容れないように思えて仕方がないのだが。

これまでに、過酷な戦場を描く映画はたくさんあった。人間性を奪う戦争の悲劇もいっぱい見てきた。戦争の大義の前に個人の幸せが踏みにじられていくドラマもあったし、美しい自然の中で繰り広げられる惨たらしい戦闘や、平和な風景が一瞬にして地獄に変貌するさまも過去の映画が描いてきた。この映画は、そのすべてを含んでいるようであり、そのどれでもない。もちろん、ドンパチで楽しませてくれる映画では、決して、ない。

だから、普通に想像する「戦争映画」とは全く異なるものだといったのである。この映画は戦場を、戦争を、兵士を描いているようにみえるが、それは何か別のことをやるための題材としてそれを使った、という程度のこと。

では何をやりたかったのか。思うにこれは、戦場における哲学的な詩の朗読会だ。朗読会として考えるに、3時間近い長さは、少々長尺にすぎるし、平板で盛りあがりに欠けるので苦行である。もっといえば、なぜ今、なぜこういう作品なのか意図が掴みかねる。そもそも、なぜ第二次大戦、なぜガダルカナルなのか。

体調万全のとき以外には絶対にオススメできない作品である。が、その映像には、どこか麻薬的な魅力がある。どうやって撮ったんだ、あんな風景。

0 件のコメント:

コメントを投稿