1/08/1999

Shakespeare in Love

恋におちたシェイクスピア(☆☆☆☆)

大評判をとっているロマンティック・コメディは、16世紀ロンドンを舞台にして、タイトル通り、舞台脚本家であるシェイクスピアが主人公。「ロミオと海賊の娘エセル」の執筆中にスランプに陥ってしまい悩んでいた彼が、演劇好きの女性ヴァイオラと恋に落ちる。

まるで、これが「ロミオとジュリエット」創作秘話ですよ、といわんばかりであるところが面白い。ドタバタあり、ロマンスあり、ドラマあり、アクションありの贅沢な娯楽作品。、誰でも知っている人物やその著作を題材に、好き放題に作った巧妙なパロディでもある。同時に、映画好きの琴線に触れやすい「バックステージもの」であったりもする。ステージの裏側を舞台に、演劇を作ることに傾けられる情熱や愛の賛歌を高らかに謳い上げるのだ。

あまり評判が高いので勘違いを誘っている部分もあるのだが、単純に、ここ最近では一番楽しく、出来のよいロマンティック・コメディなのである。コスチューム劇だからといって、真面目で堅苦しい映画じゃないんだな。シェイクスピアっていうから構えてしまうかもしれないが、そんな必要はない。実に軽やかで楽しい映画なんだから。

さりげなく現代的に味付けした台詞に仕込まれたユーモア、目を見張る衣装や豪華なセット、格調高い雰囲気を演出する音楽。2人の恋がどういう形で大悲劇『ロミオとジュリエット』に結実していくのかという筋立てでも散々笑わせつつ、2人の発する愛の言葉が舞台のセリフに転換されていく絶妙の構成と編集のリズム。これは映画を観る楽しみにあふれている。

最大の貢献は、トム・ストッパードがリライトで参加した脚本だろう。『ロミオとジュリエット』、『十二夜』などに始まり、様々な元ネタを大小散りばめた巧妙な「シェイクスピア・パロディ」を、ロマンティック・コメディとしても、バックステージもののドラマとしても、クライマックスの「ロミオとジュリエット」初演というイベントに向けてスムーズに収束させていく手際は名人芸の域にあると唸らされることしきり。薀蓄を知っているにこしたことはないが、そうでなくても楽しめる作品になっているのは、基本的な骨格やシチュエーションの作り方がしっかりとしているからであろう。

主演はジョセフ・ファインズとグウィネス・パルトロウ。ジョセフ・ファインズはレイフ・ファインズの弟で、兄に負けない整った顔立ちをしている。活き活きとした若き情熱的な舞台脚本家としてのシェイクスピア像を、現代人的な感覚を持ち込んで演じている。グウィネス・パルトロウは、男装して舞台に上がる大の演劇好きという心の通ったヒロインを魅力的に演じていて、おそらくこれが彼女のキャリアでベストといえる作品になったんじゃないか。

脇役にジェフリー・ラッシュ、トム・ウィルキンソン、ジュディ・デンチらのベテランを配しているが、女王陛下を演じるジュディ・デンチがすごいんだ。短い登場時間なのに、その貫禄で全部持って行っちゃうからな。ああ、もう一人、「主役」だと騙されてマーキュシオ役をやることになるプライドの高いスター役者を演じるベン・アフレック。彼が芝居の中身に気がついた時の物言いが笑えるんだ。

監督はジョン・マッデン。素晴らしい脚本とアンサンブルキャストを得て、流れるようなリズムとテンポで、軽やかに仕上げてみせた手腕はお見事だった。ともかく、どこを切っても超一流の上質な娯楽映画である。

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