4/11/2009

鑑識・米沢守の事件簿

相棒シリーズ 鑑識・米沢守の事件簿(☆☆★)


本作は、ご存知の通り、人気TVドラマ『相棒』の映画化作品が大ヒットしたことを受けて製作された派生(スピンオフ)作品で、六角精児演じるドラマの脇役が主人公となる作品である。物語としても映画版『相棒』の途中から派生するかたちになっている。まあ、これだけ多くのTVドラマが次々と「映画化」され途切れることなく公開されている現状をみると、TVの延長のような映画ばかりが氾濫することを憂いている場合ではなく、もはやこれはひとつのカテゴリーとして認知すべきなんだろう、と、思う。映画の興行が一部の話題作と大作だけで成り立つわけがなく、隙間を埋め、かつ、安定的に客の歓心を買える商品として(量産される)作品が必要である。これは昔もそうだったし、今でもそうなのだ。そうした作品の今日的姿のひとつとして「TVドラマの映画版」がある、ということなのだ。

そういう観点でみると、東映の「映画屋さん」がスタッフの中核を占めている『相棒』シリーズの映画には、映画そのものの今日的な位置付けということだけに留まらず、かつてプログラムピクチャーとして量産されていた軽い娯楽映画の雰囲気が濃密に漂っているところが面白い。最も、『相棒』の場合、TVシリーズの方がTVドラマ的である前に、プログラムピクチャー的な作品であるから、劇場という空間、銀幕という場所に「帰って」きても違和感がないどころか、どこか居心地がよさそうなところがあるのが、更に面白い。もちろん、今風のシネコンより、一時代前的なコヤが似合うのはいうまでもないことだ。

TVの2時間スペシャルでいいんじゃないの?という声あることを承知で云うのだが、『鑑識・米沢守の事件簿』は、上記の文脈においてそこそこ楽しめる作品に仕上がっている。シリーズのファンなら、TVシリーズが再会されるまでの箸休めとして、なおのこと楽しめるのは間違いないだろう。私はそれほど熱心なシリーズのファンというわけでもないので、キャラクターだ、ストーリーだという前に、単純に、映画としてのテンポの良さが心地よく感じられた。カット尻の短いショットを小気味良くつないだ「アクション映画の呼吸」とでもいうようなものが、ぐいぐいとストーリーを前に引っ張っていく。さすがかつてアクションで鳴らした大ベテラン、長谷部安春が監督しているだけのことはあって、TVドラマ的でありながら、十分に(B級)映画的な匂いを感じさせるのが、世に溢れる他の「劇場版」と一線を画すところだと思う。

ただ、残念ながらもろ手を挙げて評価をしたい作品になっているわけではない。この作品で失敗しているところは、主人公米沢とコンビを組むことになる萩原聖人演じる「元妻を失った所轄の刑事」のキャラクターの造詣である。これは脚本、演出、演技の全てのレベルにおいて、うまくいっていない。元妻の死で平静心を失っているというところまでは良いのだが、これでは「元妻を失った普通の人」か、せいぜい、「元妻を失ったダメ刑事」、冷静に見ると、単に無能な刑事にか見えないのだから困ってしまう。観客が感情移入しなくてはならないキャラクターなのに、この男の言動のひとつひとつが非常に苛立たしく、映画全編を通じた悪印象につながってしまっている。

そのほか、本作における「ゲスト」的なキャストに言及すると、あまりにも分かりやすい「悪役」としての伊武雅刀というキャスティングはあまりに予定調和的であるが、この映画の性格を考えれば、むしろ、そういうビジュアル的な分かりやすさは美徳と考えるべきだろう。単に悪いやつというのではなく、「セクハラ」を示唆する上で伊武雅刀の嫌らしいニヤニヤ笑いそのものがセクハラ的であり、効果絶大である。彼の部下にあたるポジションで市川染五郎を連れ出したキャスティングは大当たりである。スーツを着せると案外、小心な組織人が板についてしまうところが良いし、善だか悪だかわからない曖昧なニュアンスを出した彼の演技が作品を格段に面白くしていた。市川染五郎のセクションの職員役である片桐はいりだけは、正直もう少し何とかならないものかと思ったが、比較的年齢層の高い場内の観客には彼女のコミック的演技が受けていたので、それが狙いなら正解ということなのかもしれない。

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