4/15/2009

The Pink Panthur 2

ピンクパンサー2(☆☆★)

スティーヴ・マーティンを主演に迎えて仕切りなおした新生『ピンクパンサー』シリーズ第2弾である。まず本作がどうのこうのいうまえに、この新シリーズは面白いのか?という問いに簡潔に答えるなら、たいして面白くはない、といわざるを得ないだろう。ただ、こうも思うのだ。フランチャイズとしての「ピンクパンサー」の名前やヘンリー・マンシーニの名テーマ曲が広く知れ渡り、主演のピーター・セラーズの死後にも何本も続編が作られたほどの人気があったとはいえ、そもそも一世を風靡した「ピンクパンサー」シリーズの映画がそれほどまでに面白い映画だったのだろうか?と。8本もある作品の全てを否定するつもりはないが、笑えない上に筋すらも良く分からないいい加減な作品も多く、アベレージは相当低かったと思っている。ついでにいうなら、新シリーズの監督であるショーン・レヴィやハラルド・ズワルトもそれほど冴えているわけではないが、ブレイク・エドワーズだってヘンリー・マンシーニの音楽抜きには見られないようなろくでもない映画をたくさんとっているスカ監督だ。

しかし、まあ、映画産業の常であるように、有名なフランチャイズを眠らせておくのはもったいないと "reboot" され、前作の興行的・批評的不評をものともせず、こうして続編までも作られてしまった。まあ、安上がりに作れば意外にうまみのある商売ができるのがコメディというジャンルなのかもしれない。作られてしまった以上、特に、スティーヴ・マーティンのファンであれば、これは見ないわけには行かないのである。故ピーター・セラーズを敬愛していると伝えられるマーティンのことだから、当初は迷いもあっただろう。彼なりの「クルーゾー」を創造できると確信できるまでOKを出さなかった彼は、結局、自ら脚本にも参画するかたちでシリーズに関与することになったのである。演技者としてだけでなく、クリエイターとしても関与している本シリーズは、スティーヴ・マーティンのフィルモグラフィにおいて一定の重みがあるということだ。

ところで、スティーヴ・マーティン版の「クルーゾー」は、前シリーズから引き継ぐ形で「フランス風の馬鹿げたなまりで話すナンセンスな台詞」と「フィジカルなドタバタ」を基本にしているが、方向性は同じでも、演ずる役者が違うと笑いの質や見せ場も随分異なるものである。90年代以降は大人しいファミリー・コメディへの出演が増えていたマーティンが、「クルーゾー」という特異な人物を演ずる、いわゆる「キャラクターもの」であり、ナンセンスでフィジカルな芸を(久々に)堪能できる作品であるというのがファン的な意味で本シリーズの存在意義である。今作でも奇妙な振り付けと独特のリズムで場をさらうダンスなど、彼が昔得意としたネタを髣髴とさせるフィジカル芸がふんだんに詰め込まれており、それを楽しめる観客であれば退屈することはあるまい。『12人のパパ』シリーズなどで死ぬほど退屈をした(はずの)スティーヴ・マーティン好きにはそれだけで嬉しいと思えるはずだ。

映画全体としてみると、なんだか無駄に豪華なキャストを起用していながらそれぞれの見せ場を作ることに失敗しているのがもったいないところである。前作から続投のジャン・レノ、エミリー・モティマーに加え、ジョン・クリース、アンディ・ガルシア、アルフレッド・モリーナ、リリー・トムリン、ジェレミー・アイアンズが出演。ジョン・クリースは前作でケヴィン・クラインが演じたドレフュス役を引き継いだ形だが、利己的・権威主義的なこのキャラクターとジョン・クリースの持ち味がバッチリ合っており、マーティンとの相性も悪くないだけに、二人の絡みをもっと見せてほしいところであった。アンディ・ガルシアはそれなりのスクリーン・タイムをもらっているが、演出がタコなので、コメディに必要なリズムと軽さが足りない。アルフレッド・モリーナは完全な無駄使いで何のための起用だかわからない。こうしたビッグネームに囲まれて日本代表を演じるユキ・マツザキは、敢えて日本訛りで頑張ってはいるものの、あからさまに周囲との格の違いが見えてしまって可哀想。キャストでの一番の見所は、その昔『All of Me』でマーティンと共演したこともある大ベテランのコメディエンヌ、リリー・トムリンだろう。彼女とマーティンの絡みはさすがに呼吸が合っていて、コメディのリズムになっている。コメディ好きとしては、そんなシーンを見るだけで少しほっとするというものだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿