4/10/2009

Twilight

トワイライト~初恋~(☆☆)


昨秋、本作が米国で大ヒットしたというニュースを聞くまで、恥ずかしながらその名前を聞いたことがなかった。ステファニー・メイヤーの原作シリーズは、映画化されるまえから相当売れていたものらしい。海を越えた日本でも、主要なターゲット読者の気を惹くライトノベル風の新書、それじゃさすがに手に取るのがはばかられると感じる向きのための普通の文庫と2種類の形態で出版されていたのだが、全く気がつかなかった。それもそのはず、主人公の少女がバンパイアと禁断の恋に落ちる学園ロマンスものというのだから、そりゃ、少女マンガの世界であって、当方なんぞの目に入るわけがない。

シリーズ第1作となるこの作品は、常套としてキャラクターと基本設定の紹介を担っており、話は小さな世界で展開する。主人公である孤独を抱えた転校生が、周囲と付き合いがなく謎めいた美青年に惹かれていくうちに、彼(とその仲間)の重大な秘密を知るという話が前半。2人が付き合うようになったあと、少女が流れ者のバンパイアの狩りのターゲットとして目をつけられてしまい、その魔手から逃れよう、逃そうとする話が後半である。地元に隣接した居留地に暮らす「狼」の子孫だというネイティブ・アメリカンに伝わる「伝説」を思わせぶりに絡めつつ、次回以降に期待を持たせて幕を閉じる、といったところだ。

やりたいことも方向性も分かるのだが、映画としては中途半端である。バンパイアものである前に、恋愛ものである前に、「学園もの」であるところが本作のユニークなところであるはずなのだが、学園ものとしての描写に踏み込みが足らず、何人か登場する友人たちもお座なりで肉付けが足らない。日常生活の場である学校生活をきちんと描かなければ、異物であり、裏の世界で生きるバンパイアという存在が魅力的に立ち上がってくるはずがなかろう。これは大きな不満店である。さらに「恋愛もの」として、2人が互いに惹かれあい、心を許すまでのプロセスがきちんと描かれていないのは問題であると思う。雰囲気は演出されるが、2人が恋に落ちるのはお約束ごととしてのみしか理解しようがないのだからどうしようもない。もちろん、二人が交わす思わせぶりな眼差しだけで全てを理解できないような観客は、本作のような「お約束」で成立している作品を楽しむ素養が足りないということもできるのだろう。ただ、「禁断」のはずの異種間恋愛が、あまりにもあっさりと成立してしまうのではドラマとしての面白みがないと思うのである。

結局、本作もまた、たとえば『ハリー・ポッター』の映画シリーズがそうであるように、原作を読んだファンに向けての「動く挿絵集」として存在するだけなのである。もちろん、それが本作の目指したところであり、存在意義だとするならば、観客をうっとりさせるに十分なキャスティングを含めて成功しているといってよい。主人公の少女を演じるクリステン・スチュワートはその意志の強そうな眼差しがクールだし、相手役のバンパイアを演じるロバート・パティンソンもハリー・ポッターでの脇役では十分に活かしきれていなかった魅力を開花させ、アイドル的人気が世界中で沸騰するのも必然だと思わせる。

話の設定から想像される作品の「ポテンシャル」、魅力的なキャスティングから考えれば、本作はもっともっと面白い映画になりえたと思うのだが、本作に熱中するファンたちはこの程度の出来栄えでも十分満足するものらしい。そうやって、低いところ低いところに基準が流れていくのはあまり感心したことではない。本作の大ヒットを受けて突貫スケジュールで製作・公開される次回作の監督はキャサリン・ハードウィックからクリス・ワイツに交代、女性視点から男性視点に変わることで、この少女マンガ世界が崩壊するリスクもあるものの、彼の実績から考えるに映画としては本作よりも期待を持てそうだ。紆余曲折の上で第3作の監督に内定したのは『ハードキャンディ』のデイヴィッド・スレイド。さて、どうなることか、映画好きとしては2作目、3作目のほうがそそられる。そういう意味では、本作も一応チェックしておくくらいの価値があるだろうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿