3/21/2010

Up in the Air

マイレージ、マイライフ(☆☆☆☆)

『Thank You for Smoking』、『Juno』と、デビュー以来立て続けに面白い映画を発表してきたジェイソン・ライトマンの新作は、これまた極上の脚本にいい俳優が揃って、その若さに似合わない大人のコメディ映画に仕上がった。本作の制作に名を連ねた父親、アイヴァン・ライトマンもさぞ誇らしいことだろう。こういう成熟し、洗練された、楽しい娯楽映画でありつつ一筋縄ではいかない骨太の作品を送り出せる米国映画、まだまだ捨てたものではない。

原題の Up in the Air は、地に足のついていない、中途半端な状態を指している。もちろん、この映画の主人公は年間300日以上も出張し、常に空の上にいるのだから、文字通り Up in the Air でもある。

企業が首切りを行うに当たっての汚れ仕事、本人に戦力外通告を行い退職を促すという役回りを請負うのが主人公の専門である。出張によるマイル蓄積にある種の生きがいを見出している風情の主人公の前に現れるのは、IT時代の申し子たる新人。やる気にあふれた新人は、経費のかかる出張に替え、ビデオ・カンファレンスを使って首切り宣告を行うことを提案し、会社はそのアイディアに乗り気になってしまう。主人公にとってはライフスタイルの危機、だ。

それを発端に、面倒な人間関係を避け身軽に暮らしてきた主人公が、旅先で出あった同じ出張族の女性に入れ込んでしまったり、新人と行動を共にする羽目に陥ったりするなかで、自らの人生の空虚さを自覚し、立ち居地を再確認していく物語である。まあ、大人の映画である以上、もちろん、物語の先に分かりやすいハッピーエンドはなく、苦味のある「中途半端」な結末が待っている。

いかにも自己中心的でドライに割り切った主人公のライフスタイルや信条は、ある面、人間を相手にするアナログかつ非情な仕事ゆえのストレスから自分を守る手段ではなかったか、と思う。演技なのだか地なのだかわからないジョージ・クルーニーは、ユーモアと余裕をたたえた演技で完璧なハマり役。この人の昨今米国映画に対する貢献度は並々ならぬものがあって、本当に驚かせられる。本作のような企画を見抜く眼も鋭いし、プロデューサー、監督としてもいい仕事をしている。主演俳優としての貫禄、クラシックなスターにも見劣りせぬ輝きも凄い。今後もますます活躍を期待したい。

一方で、人との暖かい関わりとその価値をナイーヴに信じている新人は、その人生経験、職業経験の浅さゆえに、ドライに仕事の効率化を主張し、あまりにも重いレッスンを学ぶ。アナ・ケンドリックの、いかにも「米国的な悪気のないプロアクティブ」さを体現した演技には説得力があり、微笑ましい。ベテランを相手にしっかりと存在感を出していた。ここにもうひとり、大人の魅力と余裕をたたえたベラ・ファーミガが絡む。主人公と同類と見せかけながら、もっとしたたかな生き様を見せつけて主人公を唖然とさせる美味しい役どころ。これは儲け役というものだろう。

リーマンショック以前の企画であったはずだが、その後の経済状況や社会情勢にピタリとはまって、今の時代の空気が見える傑作。何度でも繰り返し見たくなる1本である。ジェイソン・ライトマン、恐るべし。

0 件のコメント:

コメントを投稿