3/06/2010

The Princess and the Frog

プリンセスと魔法のキス(☆☆☆)


2004年のウェスタン・ミュージカル・コメディ『Home on the Range(ホーム・オン・ザ・レンジ にぎやか牧場を救え!)』を最後に伝統的な手描きアニメから撤退してスタジオを閉鎖したディズニーが、久々に復活させた手書き(2D)アニメーション。アフリカ系の「プリンセス」の登場や、受身ではなく、自ら努力して幸せをつかもうとする主人公像については日本のメディアでも紹介されているからそれとなく耳に入っているはずだ。

しかし、本作を特徴付けるポイントはそれだけではない。それはなにかといえば、この映画が1920年代のニューオリンズを舞台に展開されるご機嫌なジャズ・ミュージカルであるということだ!

ご存知のとおり、ニューオリンズという街がハリケーン・カトリーナによって壊滅的打撃をうけたのが2005年のことだ。本作の企画にそれが影響を与えていないわけがない。ニューオリンズと、その土地が生み出した文化に対するトリビュートなのである。なにせ音楽を担当するランディ・ニューマンもニューオリンズ出身で、ジャズにも造詣が深い作曲家なのだ。

また、ディズニーのプリンセスものといえば欧州などの借り物が常だったところ、米国を舞台に、米国の文化を背景にしている点でも画期的であろう。

さて、お話しは、グリム童話の「カエルの王様」のパロディとでもいうべき、E.D.ベイカーの『カエルになったお姫さま(The Frog Princess)』を土台に、魔法を解くためにキスをしたら自分もカエルになっちゃった、というアイディアを核にして自由に脚色されたものである。働いて貯めた金でレストランを開業しようとしていた主人公が、蛙姿にされた某国の王子にキスをしたところ、自分も蛙になってしまい、人間に戻るための苦難の冒険が始まる。

主体的で前向きな主人公、放蕩ものでダメ人間の王子、ジャズが好きで人間とセッションをしたがっているワニ、とぼけているがロマンティックで誠実なホタル、などなどのキャラクターが生き生きと描かれ、敵方となるブードゥーの魔術師や、その力の源である「あちらの世界」のお友達も適度に怖い。ニューオリンズの街、有名なストリートカーや独特な墓地、バイユーの湿地帯なども丁寧に描きこまれ、本作ならではの雰囲気を盛り上げてくれる。

本作のために招聘されたのは、『リトル・マーメイド』、『アラジン』を手がけて90年代を牽引したロン・クレメンツ&ジョン・マスカー。(まあ、この二人には『ヘラクレス』と『トレジャー・プラネット』という、あまり誉められたものではない作品もある。)たとえ数年間でも作品の製作を休止したことで失われた人材とスキルには相当のものがあっただろう。ディズニーにはこの路線を継続的に作り続けることで、いつか第3の黄金期を築き上げて欲しいものだと思う。

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