6/18/1999

Tarzan

ターザン(☆☆☆)

ディズニー長編アニメーションの新作である。船の難破によって未開の地に置き去りになったイギリス人家族。両親の死によって残されたのは幼い赤ん坊一人だけ。ゴリラたちに愛情深く育てられ、やがて逞しい青年となったターザンは、ジャングルにやってきた霊長類研究者の一行と出会う。

監督はクリス・バックとケヴィン・リーマ、ともに長編の大作を任されるのは初めてである。ターザンの両親代わりになるゴリラの声をランス・ヘンリクセンとグレン・クローズが演じるほか、ミニー・ドライヴァーやロージー・オドネルが声の出演をしている。音楽はマーク・マンシーナ、歌曲はフィル・コリンズが担当。

ディズニー・アニメの実力と限界の両方を思い知らされる作品、とでもいおうか。実際のところ、導入部からターザンの成長を描く前半までの出来映えは脚色、演出、アニメーション、音楽ともども絶品だと思う。が、ジェインらの一行が登場してからは、少なくとも大人の観客をがっかりさせてしまうことと思う。

オープニングの手際の良さは特筆に価する。ターザンが森の中にいること、ゴリラが親代わりになって育てたことの必然性を、短い時間で的確に説明してみせるだけでなく、そこにドラマすらを盛りこんでいる。また前半部分、ターザンの成長過程では、ゴリラの集団の中で一人だけ異質であることの孤独、父親や仲間に受け入れられようとする健気な努力などがキッチリと描かれているし、登場するキャラクターたちもなかなか魅力的だ。ジャングルの描写は神秘性には欠けるきらいがあるものの、美しく迫力がある。そこには、アニメならではの動的な魅力と圧倒的なスピード感がある。

ところが、ある種、傑作の予感すらさせる出来映えだった映画は、途中から一気ににしぼんでいく。もちろん、悪人が最初から悪人面していることなど、ある程度お約束と思われることもあるのだが、それを含めてジェインと父親たち一行の薄っぺらな描き方は酷い。ターザンのドラマがしっかり描けているだけに、その貧相さが際立ってしまったようだ。

特にジェインの父親は、近年のディズニー作品でもよく見られた、人間としての最低限のリアリティと父性に欠けた子供っぽい父親で、存在感がないばかりか物語に何の貢献もしない。これをきちんと「大人」のキャラクターとして描けるようにならないと、ディズニーのアニメは先に進めないと思う。おかげで後半の善と悪の対比も、ドラマも、全く盛り上がらず、スピード感のあるアニメーションが上滑りしている。「子供向きだから」という思い込みと甘えをここに見る。

「ミュージカル」形式を捨てて、フィル・コリンズの歌曲を「語り部」として使う手法は、古典的ミュージカルに対して、いってみれば『フットルース』のような感じ、とでも例えようか。こういう新しい挑戦は大いに歓迎したい。もしかしたら、これが本作で一番の収穫かもしれない。

子供向きだからといっても手抜きをしない真剣さが感じられた前半と、子供向きだからこの程度で良いだろうという手加減が明白な後半で、天と地ほどの差がでた仕上がりである。これは非常にもったいないと思う。

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