6/04/1999

Instinct

ハーモニーベイの夜明け(☆☆)

アンソニー・ホプキンス演ずる高名な霊長類の研究者が、アフリカに調査に行ったまま2年の間行方不明になっていたのだが、何人ものアフリカ人を虐殺した精神異常の殺人者として逮捕され、米国に移送されてくる。キューバ・グッディングJr扮する精神分析を専門とする野心的な主人公は、一言も喋ろうとしないこの男の強暴性や狂気がどこから発しているのかを解き明かして自らの名を売ろうとする。

一応、心理サスペンスの衣を纏った人間と友情のドラマである。ダニエル・クインの小説『Ishmael』を土台にした映画化だという。しかし、なんでこんな企画が通ってしまうのだろうかと、不思議に思う。話に新鮮味はなく、何の驚きもない。焦点を絞り込めず迷走する脚本。どこかの映画で見たようなシーンの寄せ集め。

もしかしたら、アンソニー・ホプキンスをキャスティングするから、そういう印象が増幅されるのかもしれない。もしかしたら、相手役のキューバ・グッディングJrが、一応はアカデミー賞俳優だとはいえ、似合わない役を背負わされて窮屈に見えるからかもしれない。

監督のタートルトーブは、『クール・ランニング』や『あなたの寝ている間に』などのコメディの佳作で注目を集め、前作『フェノミナン』では作品の幅を広げたように見えた。これまでも、脇役にいたるまでの丁寧な人物描写が持ち味だったが、そこは本作でも変わらず、刑務所仲間や脇役をしっかりと描こうとしている。そのおかげか、残忍な刑務所長を演じるジョン・アシュトンからは、これまでのイメージを覆す好演を引き出した、とすら思う。が、この映画、本作のキモであるべき、主役二人の心理にちっとも迫って行かない。寄り道の多い脚本にも責任はあるだろう。

不思議なのは、それほど出来の良い映画ではないのに、見応えがあったような錯覚すら覚えてしまうことである。それはひとえに、名優アンソニー・ホプキンスの圧倒的迫力のせいだろう。同じアカデミー賞俳優でも格が違うといわんばかりに、もうひとりの主演キューバ・グッディングJrを食い散らかしてしまう存在感である。凶暴性と悲劇性を同時に体現する彼の演技は全く素晴らしい。

それゆえに、なぜこれほど素晴らしい俳優が、この程度の映画で、「ゴリラと生活をともにした男」を演じていなくてはならないのかと残念に思うのである。ついでにそのゴリラを製作したのが迷作『コンゴ』も手掛けた大御所スタン・ウィンストン。並居る才能がこんな企画で時間を浪費しているのは如何にももったいない。

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