10/25/2008

Every Little Step

ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢(☆☆☆☆)

ブロードウェイ・ミュージカルの舞台裏を題材にしたミュージカル、『コーラスライン』の再演にあたっての、ほんとうに入念で、手間隙と時間のかかったオーディションの様子を克明に捉えた秀作ドキュメンタリー。メタ構造となる題材の選び方、企画そのものが一番の勝因であるが、オリジナルの『コーラスライン』(1975年初演)が生まれるまでを、原案者であるマイケル・ベネットのインタビュー・フィルムなどを丹念に集め、きちんと挟み込んでいったことで30年におよぶ歴史の厚みが出た。

初めは何千人もが集まったオーディションも、段階が進むにつれハイレベルの実力者ばかりが残っていく。何ヶ月にも及ぶ長丁場のオーディションのなかで、役を演じることではなく、役を生きることを求められるさまは、まさに素の自分を表に出して語っていく『コーラスライン』の物語さながら。残酷なようであるが、候補者の中で誰が残り、誰が選ばれていくのかを見守るのは、我々観客にとってはスリリングな体験である。カメラは、目の前の候補者の人間性に肉薄するとともに、おある候補者の、あまりのパフォーマンスを前にして審査員一同が期せずして涙を流してしまう瞬間など、ドラマチックなシーンをあまさず捉えていて圧巻だ。また、「前回は良かったのに今回はどうしちゃったの?」といわれた女優さんが、「何ヶ月も前のことなんて覚えていない」と苦悩を吐露する瞬間。この映画の観客にとってはほんの何分か前に目にした姿の記憶が鮮明なだけに、なんとも残酷で心が痛む。

私がかつて見た『スウィート・チャリティ』の舞台で、骨折した主演クリスティーナ・アップルゲイツに代わり主演を張っていたシャルロット・ダンボワーズが、(これもまた役柄と重なるわけだが、『シカゴ』の主要キャストすら演じたことのある)その実績や実力にもかかわらず他と同じゼロからの過酷なオーディションに臨み、オリジナルキャストとしての初主演(キャシー役)を勝ち取っていくところは本作の個人的なハイライトで、厳しいプロフェッショナルの世界を目にして打ちのめされる思いであった。(付け加えると、同じくダンサーである彼女の父親のエピソードも壮絶であった。)

ちなみに、この「再演」であるが、興行としては大成功とはいいかねるもので、すでに幕を閉じてしまっているのである。8ヶ月とか、1年近くかけてオーディションを行っても、1年や2年でクローズとなってしまう、興行の世界もまた厳しいものだ。そこらへんの事情についてはメル・ブルックスの『プロデューサーズ』に詳しい(嘘)。

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