10/23/2008

The Nanny Diaries

私がクマにキレた理由(☆☆☆)

この秋、2本の出演作が立て続けに公開されたスカーレット・ヨハンソンの、1枚看板による主演作がシャリ・スプリンガー・バーマンとロバート・プルチーニ協同脚本・監督作品である『私がクマにキレた理由』。このコンビは『アメリカン・スプレンダー』が評判だったが、現時点で未見。本作は、大学はでたものの就職先がなく、なりゆきからアッパーイーストサイドの富裕家庭で住込みの子守(ナニー)をやることになった女の子の視点で、「上流階級」のクレイジーな生態を暴き出すコメディ。雇い主夫婦を演技巧者のローラ・リニーとポール・ジアマッティ。登場時間は短いけれど印象深いのは主人公の母親を演じるドナ・マーフィ。『ファンタスティック・フォー』の炎男、クリス・エヴァンスが同じ建物に住むちょっといい男役で出演している。

主人公が文化人類学専攻という設定で、「アッパーイーストサイドに生息する未知なる人種のサンプル調査」をしているかのような見せ方が賢い。(だから、雇い主夫婦は終始、観察対象のサンプルという意味で、「ミスターX」「ミセスX」と呼ばれている。)物語の基本構造は女の子が社会にでて、頑張って、自立していく成長譚なのだが、これをありふれた1本とは毛色の違う作品にしているのが作り手の社会風刺、社会批評精神といえる。事実、主人公の雇い主夫婦の描写、彼らのお仲間たちの描写は、いちいち悪意がこもっていて、たいへんに面白い。これをサンプルとして提示することで、「映画向きの特殊な事例(作り事)」ではなく、「(誇張はあるにしろ)一般的な事例」である、という主張がなされていると考えてよかろう。けけけ、全く変わった連中だぜ、金持ちってのはさ。そんな金持ち連中も、この不況の煽りをうけて高級アパートを引き払っているんだろうね、このご時勢。

さて、その雇い主夫婦。どちらかといえば庶民な印象のローラ・リニーに有閑マダムをあて、颯爽としたビジネスマンというより「猿の惑星」なポール・ジアマッティを夫役という、あからさまに見てくれより演技だというキャスティングが素敵である。特に、ローラ・リニー。メリル・ストリープが『プラダを着た悪魔』で演ったように、完璧な悪役の中に一滴の人間味を出させる演技を要求されているのだが、これが難しい。メリルの役は悪役ではあるが「プロフェッショナル」でもあった。しかし、このマダム(やその周囲にいる同類)のやっていること、主張していることときたら、まあ、どこをどうとっても呆れ果てるばかり、もう、どうにもエクスキューズのしようがない。それでも決して平面的ぺらぺらの人間として描かれているわけではなく、彼女(やその同類)なりの立場や悩みがあるわけで、このあたりの脚本のさじ加減は見事というしかないのだけど、その微妙なところをきちんと演じて見せるのだ、ローラ・リニーという女優は。前から好きな女優さんではあったのだが、これにはもう、感心しきりである。

スカーレット・ヨハンソンは、高卒グダグダの『ゴースト・ワールド』に逆戻りまでとは云わないが、大卒なのに世間知らずのグダグダふてくされ系の精神的に幼いキャラクター。ま、彼女ならこの程度の役、簡単なものだろう。もっとわかりやすく、元気ハツラツで可愛い女優さんを使えばこの映画のコメディ指数は高まったかもしれないが、「文化人類学専攻」などというマニアックな役柄でもあるので、ヨハンソンのダラっとした感じがはまっている。しかし、ウディ・アレン作品でのセクシーな魅力はどこへやら。フツーっぽい女の子を演じているからフツーなのかもしれないけどさ。

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