12/16/2008

Che (Part-I / Part-II)

チェ 28歳の革命(☆☆☆)
チェ 39歳別れの手紙(☆☆☆☆)

1本の映画として(☆☆☆★)

監督であるスティーヴン・ソダーバーグが、歴史的事実にこだわって作ったと語る、7年越しの企画、『CHE』。アカデミー賞を賑わせた『トラフィック』でコンビを組んだベニシオ・デルトロを主演(Executive producer兼任)にした、合計4時間半、6000万ドルをかけた(当たり前というべきか、驚くべきことに、というべきか)全編スペイン語による大作だ。完成に至るまでには自らが製作に回り、テレンス・マリックを監督に起用する話もあったようだが、結局、当初の予定通りにソダーバーグ監督の手で完成した。(白状しておくと、ソダーバーグは苦手だが、マリックはもっと苦手だ。)

映画は、カストロの誘いにのったチェ・ゲバラがキューバに上陸し、ゲリラを組織しながら革命戦争を戦い抜くまでを描く第1部(Che: Part-I 『28歳の革命』)と、彼がキューバを去り、変装して入国したボリビアでゲリラ戦を戦うも、ボリビア共産党や民衆を味方につけることができず、CIAの強力な支援を得た政府軍によって追い詰められ、殺害されるまでを描いた第2部(Che: Part-II 『39歳別れの手紙』)にわかれている。それぞれ135分の長さにきっちり等分されているが、フラッシュバックを使って革命戦争後のインタビューや国連演説を挿入するシネマスコープ・サイズの第1部、淡々とリニアな時間軸で描いていくビスタ・サイズの第2部と、スタイルや画面サイズが変化するという、ソダーバーグらしい変則技が用いられているのが興味深い。そして、少なくとも日本においては、これらが2本の映画(2部作)として、1本ずつ、時期をずらして連続でロードショーされることになる。

2本にわかれているとはいえ、しかし、観終わった印象としては、やはり、これは1本の映画なのだ、ということに尽きる。第1部において挿入された国連での演説シーンや、米国、南米各国とのやりとりは、第2部への伏線と動機を与えるものになっていること、第1部での成功と、第2部での失敗が常に対比されるように描かれていることがあり、2本の映画として時間を置いてみるよりは、1本の映画として続けてみるほうがドラマティックな効果をもたらすのは明白だと思う。(実際に、作り手もそもそも1本の映画として鑑賞してもらうことを意図した旨は語っている。)ただ、4時間半はあまりに長い。第1部、第2部それぞれを30分ずつ摘み、合計3時間の映画として公開したらどうなのか、などと思ってしまう。もちろん、題材に思い入れのある作り手としては、もうこれ以上切る場所がないと思っているのだろうし、「これ以上切るなら縦に切れ」ではないが、丁度、内容的にもスタイル的にも変化のある真ん中で切って2部作とすることを選択したわけだろう。それはBDなりDVDなりの完全版でどうぞ、というアプローチがあっても良かったのではないか。

全体を通した共通するスタイルは、対象にぐんぐん肉薄していくと同時に、説明的な表現は最小限に留めた(監督得意の)ドキュメント・タッチである。第1部では、そこに白黒のフラッシュバックで、革命戦争後、国連演説のために米国を訪れた際に行われたと思われる米国人レポーターによるインタビューと、国連での演説がかぶさることで、チェの考え方や意図が本人の口から説明されるという体裁をとっている。ここではさまれるインタビューにおいて、過去の出来事についての質問にチェが答えているのだが、実際に画面に映し出された(映画の中での)真実と、彼が後に語っていることのあいだにある微妙な温度差や距離というのがスリリングであり、映画のアクセントとなっているのが面白い。また、第2部においては、兵士の士気、軍隊の規律、農民との関係や共闘、「外国人」としてのチェの立ち位置など、キューバ革命戦争時との違い、歯車の狂いがひとつひとつ対称的に描写されていくにつけ、悲痛なほどの重苦しさが画面に充満してくる。ここは、理想を掲げて革命軍の指導にあたりながら、八方塞のなかで敗走を繰り返し、死にいたるという典型的な敗北の美学、ドラマがあるのだが、映画はそれを静かに、抑制の効いたタッチで、あくまで客観的に、淡々と描いていく。ここは、第1部で描かれたキューバ革命戦争や、そこでのチェを対比において、観客が脳内でチェの主観的な世界を補完していかなくてはならない。映画がそこに立ち入り、作り手の解釈を押し付けるのを避けたのは、題材ゆえに適切で冷静な判断であったと考える。

出演者の中に、あらおなつかしやルー・ダイヤモンド・フィリップスがいたり、マット・デイモン&フランカ・ポテンテの『ボーン』な2人がいたりするのを見つけてニヤニヤしてしまった。いや、あまりにも知らない顔ばかりの映画で、知ってる顔に出会うと、ほっとするんだよね。やっぱり。

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