12/06/2008

WALL*E

ウォーリー(☆☆☆☆★)

ホリデイシーズンを当て込んで発売され、届いてしまった北米版BDの誘惑に負けまいと、封を切らずにじっと耐えること数日。公開2日目の土曜日に劇場に馳せ参じた次第、これが期待に違わぬ「映画」であった。日本公開をかくも遅らせ映画好きをいらいらさせた以上は、きっちりヒットを飛ばして多くの観客が劇場で作品を楽しめるようにするのが配給会社の責務といえよう。

しかし、まさに「映画」、なのである。このルックス、このフィール。ことにほとんど台詞抜きで進行する映画の前半は、話には聞いていたとはいえ実際に目にすると見ているこちらまで言葉を失ってしまう完成度だ。廃棄物の山で摩天楼が築かれた廃墟の未来世界の圧倒的な説得力。そこでひとり黙々と「任務」をこなす(『E.T.』や『ショート・サーキット』の"ジョニー"こと"No.5"に似た)Wall*E の健気さ、孤独、そしてささやかな楽しみを動きや音で表現しきる演出力。さまざまなアイディア。ただのCG映像ではない。単に緻密なだけではない。映画としてどのように見せるべきか、どう語るべきか、何を語るべきか、検討しつくされた成果がそこにある。

Pixar の作品はいつでもいわゆる「アニメーション」作品であるまえに、「映画」として成立している。脚本を練りこむのに相当の時間とエネルギーを注ぎ込んでいることはよく知られたはなしだが、本作では実写映画の世界ではその名の知れた(コーエン兄弟の諸作品などを手がけている)撮影監督ロジャー・ディーキンスや、特撮のデニス・ミューレンをアドバイザーとして招き、実寸の模型を作り、照明のあてかたやレンズの選択による見え方の違い、「特撮要素」の効果的な見せ方に至るまで研究しつくし、検討しつくし、それを作品に反映させてきているという。先に、「単に緻密なだけではない」と書いたが、CGが精緻だから実写に見えるのではない、実写映画だったらどう見えるか、どう見せるかを精緻に再現しているから実写に見えるのだ。これには舌を巻くしかあるまい。2Dのトラディショナルな技法から3DCGアニメーションへと技術が革新された以上は、それに見合った新しい製作プロセスや考え方が必要だということを、誰よりも良く理解し、実践しているのがPixar だといえる。それは、他の追随を許さない作品の質において実証されている。

ストーリー面では、宇宙船内でのアドベンチャーに転ずる後半が評価の分かれ目であろうか。前半ほどのオリジナリティを獲得できていないとはいえ、どうしても突出しがちなSF的アイディアやメッセージ性を出来るだけ抑え込みつつ、昔ながらのスラップスティック的アニメの楽しさを職人的に再現してみせ、なかなか楽しい出来栄えではあるが、これを凡庸と感じる向きもあろう。Wall*Eと(西原理恵子の「いけちゃん」似な)EVEのラブ・ストーリーから逸脱しない筋の通し方も見事なら、反乱を起こすマシーン・AUTOの意匠的なオマージュにとどまるかと思われた『2001年宇宙の旅』が、突如、あの音楽が、あの瞬間に、人類の「進化」の象徴として鳴り響くという見事なアイディアには心から感服させられた。そして楽観的といわれようがなんといわれようが、この希望に満ちた結末は、こんなご時勢だからこそ感動的だといえるのではないか。それに続いてのエンドクレジットもまた、その後の物語、人類の進化というモチーフを補完する役割を果たしており秀逸だ。

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