1/10/2009

Exiled/放逐

エグザイル/絆(☆☆☆☆)


緊張と弛緩。激しいヴァイオレンスとそこはかとないユーモア。スローモーションで引き伸ばされた激しくも美しい銃撃戦と銃撃戦の間をつなぐのは、確実に死に向かっているというのに、いい年をして子供のようにはしゃぐ男たちの姿であり、行く当てもなくコイントスで方角を決めてさまよう男たちの姿である。それは、どこか北野武の『ソナチネ』の感覚に似ている気がする。ジョニー・トーの2006年作で傑作と名高い話題作『Exciled』は、1999年のマカオの返還前夜を舞台に、幼馴染じみの友人を殺すよう組織のボスから命じられた男たちの話である。この期に及んで何故だか地元に戻ってきた「友人」は、若い妻と生まれたばかりの赤ん坊を抱えており、妻子のために、せめて金を残してから死にたいという。友情と仁義から、裏社会での暗殺仕事を引き受けることにした男たちだったが、思わぬ展開から組織をも敵に回して居場所を失ってしまう。

脚本がなかった、という。その昔の香港映画ならともかく、現代の映画作りにおいてそのような芸当はなかなか難しいと思うのだが、冒頭でも述べたような緊張と弛緩の繰り返しに身をゆだねていると、脚本なしに物語を組み立てながら気心の知れた俳優たちと撮影していった、というはなしに信憑性があると思わされるようになってくる。大きな意味でのストーリーラインや構成は頭の中にあったとして、よい意味で行き当たりばったりの産物というか、その場その場における即興的セッションでつくられたようなユルい感覚が全編を支配しているのである。中盤過ぎ、無目的にさ迷い歩く男たちの姿に中だるみを感じないわけではない。もしかしたら、きちんとした脚本を事前に用意していたらもう少しタイトな作品に仕上がったかもしれない。そうはいっても、ここにあるだらっとした時間もまた、この映画独特の空気を醸成しているのである。実は、そこが捨てがたい味になっており、嫌いではない。

本作の最大の見せ場といってもよい銃撃戦は、手を変え品を変え場所を変え様々なバリエーションで用意されているので見ていて飽きない。最初は狭い部屋の中で5人が撃ち合い、次は暗殺ターゲットを待ち伏せていたレストランでのハプニングから続く緊張感溢れる一連のシーン。闇医者での思わぬ遭遇から展開する屋内でのカーテンを使った複雑なシークエンス。金塊輸送車強奪グループと警備係の撃ち合いに絡んでいく屋外での緊迫したシーン、そしてクライマックスとなるホテル内の階段や通路、吹き抜けといった高低のある場所を舞台とした大掛かりな大銃撃戦。屋内の複雑なアクション・シーンんぞ、いったいどのように撮影したものだか知らないが、かなりの手間隙がかかっているように見受けられる。凝ったカメラアングルや痺れるような間を挟みつつ、電光石火のうちに展開する銃撃戦はどれもかっこよいだけでなく洗練された美しさに溢れている。このレベルが今後のアクション映画の基準になるのではないか、と予感させる出来栄えは興奮必至である。

帰ってきた「友人」を尋ねる冒頭のシーンのただならぬ緊張感がいい。偶然通りかかった(と主張する)引退間際の(お笑い担当)警察官とのユーモラスなやり取りが、その緊張感を高める。また、1トンの金塊を輸送するトラックを見かけ、襲撃するかしないかをコイントスで決め、襲撃しないことに決まった瞬間の男たちのがっかり感たっぷりのリアクションが大好きだ。クライマックスで女を逃がし、そのまま去ることもできたはずの男たちが覚悟を決めて扉を閉める、その自ら死に場所を決めた格好の良さは、いや、こういうのが見たかったんだよと心の中で拍手喝采。その銃撃戦の舞台でもあるホテルの造形などにも顕著に見られる西部劇タッチの隠し味もいい。照明、構図、台詞、決めのポーズ、ちょっと格好良すぎて笑ってしまうくらい、いい。幼馴染の5人組というが、アンソニー・ウォンだけやたら年くっているようにみえるのはご愛嬌か。ま、別に必ずしも同じ年代である必要はないのだけど。

0 件のコメント:

コメントを投稿