8/15/2009

Bolt (3D)

ボルト(☆☆☆★)


3D(日本語吹替)での鑑賞。まあ、経験的にも3Dでの字幕は厄介だから、吹替もやむなし、である。個人的にはオリジナルそのままの音声、字幕なしで鑑賞できると良いと思うが、興行としては成立しない。劇場公開という形態を考えたら、観客一人ひとりが好みに合わせて音声や字幕の切替えやON/OFFができるようにすることも不可能。かくして3D映画の興隆でオリジナル音声を聞く機会が確実に減っていくのだとしたら由々しき問題だと思っている。

さて、本作である。ディズニーがPIXARを買収した結果としてジョン・ラセターがディズニーのアニメーション全体の指揮を任されるようになってしばらく経つのだが、本作はその新体制になってから立ち上げられた最初の作品なのだという。新体制の肝は、経営主導による製作ではなく、作家主導による作品作りということに尽きるのだろうし、中身においてはPIXARがそうしてきたような、ストーリー(とキャラクター)に対する徹底的なこだわりの追求、ということになるのだろう。その結果、本作は、これまでの低迷はなんだったのかと思わせる出来栄えで、嬉しくもなるし、恐れ入りもするのである。

飼い主から離れてしまった犬が、大好きな飼い主のところに戻るため、仲間と共に大陸横断の旅をすることになるというシンプルなストーリーを核にした、ファミリー映画の王道をいくドラマである。そこに『トイ・ストーリー』のバズ・ライトイヤーを思わせるような、「フィクションの世界を現実と勘違いさせられている犬」というひねりを加え、笑いを生み出すと同時に、主人公のである犬の内面のドラマを引き出している。過去にトラウマをもつ人間嫌いの猫、TVばかり見ていてこれまた世間知らずのハムスターなど、脇のキャラクターもきっちり作りこまれ、頭の悪い鳩たちで笑いをとる。PIXARの作品がそうであるような、ときに実験的であったり野心的であったり趣味的であったりするような、ある種の「濃さ」には欠けている。が、そのあたりが今後の「DISNEY」と「PIXAR」のブランドのアイデンティティの違いになっていくのかもしれない。

映画の肝となる設定を説明するために設けられた冒頭の劇中劇に感心した。要は、主人公の犬が出演しているTVドラマの撮影シーンなのだが、普通にカットを割って撮影していたりしていようものなら、さすがの役者犬も現実とフィクションを勘違いしたりしない。そこで、「犬の真剣な演技(=本気)を引き出すため」に、ライブ・アクション一発撮りで撮影をしているという、うまいアイディアを持ち出してくるのである。ダイナミックなアクション、手に汗握るスリリングなチェイス、、、と、まあ、実際にこれをこんなやり方で撮影するのはどう考えても無理な話。大嘘を嘘っぱちと思わせないあたりの絶妙のさじ加減。裏方スタッフの働きを挟み込みながら、「これでは犬も自分の超能力を信じるよね」と観客を納得させてくれるし、そもそもアクションが良くできていて、映画の導入、つかみとしては完璧だといってよい。

3D映画という観点からは、この作品が「3D」であることを特別に意識したような演出が目立たないこと、普通に作った映画を自然体で3D化処理しただけのような気負いのなさが印象に残った。3D作品をみるのは久しぶりなのだが、ロバート・ゼメキスの『ポーラー・エクスプレス』3Dや、『ベオウルフ』3Dなどは、3Dを売り物とした過剰な演出が楽しくもあり、鼻につきもしたものだ。自然体とはいっても本作、冒頭のアクションやクライマックスなどの大掛かりなシーンは言うまでもなく、ごくごく普通のシーンにおける奥行きに広がりが感じられ、臨場感や没入感は格段に高まっている。選択肢があるなら3Dで見たいと思わせるだけの有意差はあるのだが、一方で、本作の強み、そして良さというものは、3Dのアトラクション的側面に頼らなくても成立する普遍的な映画としての質の高さでもある。やはり、本当に面白いものはどんなフォーマットであろうとも面白いということか。

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