5/15/2010

An Education

17歳の肖像(☆☆☆☆)


1960年代、ロンドン郊外で、うんざりするほど退屈な日常を送っていた利発で聡明な少女が経験する、甘くて苦い通過儀礼の物語。オクスフォード進学を期待されながら、その先の人生に希望や将来性を実感できない主人公(キャリー・マリガン)は、怪しい商売に手を染めた30代後半の男(ピーター・サースガード)が連れ出す快楽的で刺激に満ちた世界への抗し難い魅力に吸い寄せられていく。

本作は英国のジャーナリストであるリン・バーバーの自伝("An Education")のもとになった同テーマの短いエッセイを、(映画ファンのあいだでは『About a Boy』や『High Fidelity』の原作で知られる)ニック・ホーンビィが脚色して映画化したものだが、まずなんといってもアカデミー賞にもノミネートされたこの脚本が見事だ。繊細に描かれる主人公のキャラクターはもちろん、主人公の両親や学校の先生にしても、それぞれのキャラクターに生きた人間としてのリアリティがある。会話のテンポと内容が実にリズミカルでポップ。その一方、下世話になってもおかしくない話を、品格をもってまとめている。それでいて、文芸映画な退屈さとは無縁。

ここで描かれるのは、時代と場所に特有な環境における、特殊な少女の、特殊な体験でありつつ、時代や場所にとらわれない普遍的な物語でもある。監督のロネ・シェルフィグはデンマークの人なのだが、主人公を取り巻く環境と空気を丁寧に描出しつつ、物語の核にある普遍性をあぶりだしている。同じ欧州人とはいえ、国境とカルチャーを超えてこれだけ達者な演出をできるところは感心するし、外部者としての、すこし距離をおいた客観的な視線も感じられる。その距離感は、この話に "An Education" と命名した作者の視点とも重なる。

賞レースの台風の目となったキャリー・マリガンの「一生に一度」的な輝きはいまさら言及するまでもないとして、その相手役となるピーター・サースガードの胡散臭さが非常に素晴らしい。このひと、どうみても普通の「美男子」の基準からは外れているが、この役は主人公視点ではとても魅力的に見えなくてはならないし、観客目でみてそのことに説得力がなければならないという意味で、結構な難役である。コミュニケーション能力に長け、物腰が優雅で、金回りがよく、趣味や話題が豊富、普通に考えれば真っ当ではないが、世の中の仕組みを鼻で笑って美味しい蜜だけをすくっていく、こういう男を本当の美男子が演じたらファンタジーになってしまっただろう。主人公の父親を演じるアルフレッド・モリーナ、校長役のエマ・トンプソンは、幾分類型的に描かれた役ではあるが、それだけでは終わらない深みを与える好演。こういうベテランと若手のアンサンブルは気持ちがいい。

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