5/08/2010

District 9

第9地区 (☆☆☆★)

ピーター・ジャクソン製作、ニール・ブロムカンプ脚本・監督で、公開以来大いに話題を呼び、作品賞枠が10本に拡大された米アカデミー賞にノミネートされて一躍名を上げた異色SF作品。

南アフリカ、ヨハネスブルグ上空に出現した巨大宇宙船からの「難民」であるエイリアンたちが被差別民的に暮らすスラム街、第9地区。このエイリアンたちを別の専用居住地区への強制移住させるための現場監督を任せられた職員を主人公にして、フェイク・ドキュメンタリーのタッチで現実社会における人種隔離や差別、文化の衝突を風刺的に描きつつ、B級魂が炸裂するアクション・アドベンチャーになっている。テーマ、スタイル、エンターテインメントのユニークな融合と、映画好きの心をくすぐるディテールや笑える設定・描写山盛りのサービス精神に思わず顔がほころんでしまう快作。

エイリアンと人類が共存する世界といえば、エイリアンを(ヒスパニック系の)移民になぞらえた『エイリアン・ネイション』なんかを想起するのだが、本作はもう、あからさまにかつての南アフリカにおけるアパルトヘイト政策や、黒人たちの強制移住など、現実に起きた事件をあからさまになぞっていて、「エビ」と呼ばれて蔑まれているエイリアンたちの人権なぞどこ吹く風という主人公の言動に皮肉がパンチが利いていて面白い。エイリアンの設定も、知能程度の高くない2級市民的な種族としていて、二重の意味で被差別的な存在におかれているあたりがいいアイディアである。彼らをコントロールする立場にあった(おそらく宇宙船や超絶兵器を使いこなす)高等な種族が事故か疫病でほとんど死滅したからこそ、辺境の星である地球なんぞで立ち往生する羽目になっているというわけだ。

謎の液体を浴びた主人公のDNAが変化をはじめ、「エビ」へと変貌してしまうあたりは『フライ』等へのオマージュだろうか。今度は主人公の人権もなにもあったものじゃなくなり、当局に監禁され、実験台にされてしまう。なぜにして当局はそこまでするのか、といった動機付けの設定が本作で最高のアイディア。エイリアンの持ち込んだ超絶的な武器、兵器類は、「エビ」のDNAで起動するので、人類は使用できないのである。後半は、その設定を活かした大活劇になるのだが、あんまり高尚ぶっておらず、良い意味で、なんでもありのB級展開である。そういう部分がかえって清々しく、好印象のよくできた娯楽作品である。

SFチックな意味での避けがたいグロテスク描写がネックになって手を出さないひともいるかもしれないが、さしてハードなものではないので、よほどこういうのが苦手な人でなければOKなんじゃないか。グロ描写を理由に本作を避けるとしたら、ちょっともったいないと思うので、食わず嫌いをせず、手を出して欲しい。面白さ保証付き。

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