5/15/2010

Le Concert

オーケストラ! (☆☆☆☆)


ブレジネフ時代のソビエト連邦で、ボリショイ交響楽団からユダヤ人排斥が行われたことをモチーフにした人情喜劇の秀作。お笑いのセンスがちょっとベタなあたりは、逆にいい味になっていると好意的に受け止められる観客であれば、社会的な背景を踏まえつつ、笑いと涙とスリルと音楽のフルコースで、映画を楽しんだという充足感に満たされること保証つきである。

表舞台を追われた人々が千歳一隅のチャンスを得、ボリショイの名を語りパリでチャイコフスキーを演奏しようとするのがメインストーリー。そこに本作の主人公である元指揮者、招聘される人気ソリストらの人生のドラマが絡み合い、クライマックスのコンサートに向かって怒涛のように雪崩れ込んでいく。

偽オーケストラがバレずに公演を成功させられるのかというサスペンス。ロシアから華の都パリに出てきて浮かれてしまう団員たちの奇天烈な行動で巻き起こる笑い。そして観客席を本物の感動で震わせる演奏。いくつもの要素を手際よく整理し、最高の幕切れにむかって練りあげていく脚本、この構成が見事である。大筋でいえば定石どおりかもしれないが、一つ一つの要素、エピソードに、少しずつサプライズがあって新鮮である。

一応、パリを舞台にしたフランス映画、である。まあ、先にもあげた笑いのセンスはフランス映画そのものである。しかし、各国混成のキャストがひとつの映画の中で素晴らしいアンサンブルをみせてくれる映画でもある。出演者は『イングロリアス・バスターズ』とは違った魅力を振りまくヒロイン、メラニー・ロランを筆頭に仏の芸達者が顔をそろえる一方、主演のアレクセイ・グシュコブ(ポーランド生まれ)を初めとするオーケストラの面々はロシア系の俳優たちが起用され、それだからこそだせる空気を作り出している。

なにせこの作品、監督のラデュ・ミヘイレアニュはもともとルーマニア生まれ、チャウシェスク政権下からの亡命者だという。こういう国籍や文化の入り乱れた感じはちょっと羨ましいというか、仏に閉じない「欧州映画」の風格につながっている。そして、欧州の現代史を踏まえたドラマを描いている。

ところで、こんな映画の共同脚本に、スピルバーグとの縁浅からぬマシュー・ロビンスがクレジットされているのがちょっと謎。『ミミック(1997)』以来、なにがあったというのだろう?

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