5/15/2010

Precious: Based on the Novel Push by Sapphire

プレシャス(☆☆☆)


まあ、壮絶な話である。実話じゃないにしろ、これに類する話は珍しくないというのも凄まじい。

16歳の超肥満黒人少女は、義理の父親から幾度となくレイプされた挙句、12の時、すでにダウン症の息子を出産し、いまは2人目を妊娠している。公的扶助だけを頼りにする怠惰な母親は、自分の夫を奪った娘を、それゆえに虐待する。読み書きもろくろくできない。逃げ場所は妄想のなかだけ。80年代のNY、ハーレム。社会の最底辺の地獄のような生活のなか、周囲に差し伸べられた手によって少しだけ見えてきた希望。そこでダメ押しのように明らかになるのは、義理の父親からHIVに感染していたこと。

どう考えてもメジャーが手を出さない題材である。サンダンス映画祭で成功し、オプラ・・ウィンフリーとタイラー・ペリーが強力に興行の後押しをした結果、興行的にも一定の成果を収めることができ、賞レースを賑わせた。オプラがいれこむ理由は、彼女自身、10代未婚の母に育てられ、9歳で強姦され、14際で妊娠した経験があるという、なんだか映画みたいな経歴ゆえだという。

フィクションではあるが過酷な現実、そんな内容を映画にして知らしめることの価値は大きい。ある意味で使命感を背負った映画である。しかし、違う言い方をするなら、主人公の背負った運命の壮絶さそのものが、「映画」という枠組を吹き飛ばしてしまうタイプの作品で、何が描かれたかが、どう描かれたのかを圧倒し、評価するにあたって思考停止に陥ってしまうタイプの映画、である。ある意味、こういうのはちょっとずるい。

本作が2本目の監督、リー・ダニエルズは、当然、そういう自覚があるはずだ。それゆえに奇を衒った演出に走ったり、ことさらドラマティックに盛り上げようとしたりせず、主人公に淡々と、誠実に寄り添っていくスタイルをとっているのではないか、と思う。個人的には、主人公が逃避する妄想の世界の使い方が中途半端だと感じたが、あまりやり過ぎると、『シカゴ』になっちゃうし、そうすると描かれた「現実」が作り物のようになってしまう。それは、作り手の意図とは違うということだろう。

主人公を虐待する母親役でコメディエンヌのモニークが出演、アカデミー賞受賞時の感動的なスピーチも印象に残るが、確かに、引き受けるのをためらうような役柄で、これを引き受けて、こういう演技をやってのけたことは確かに賞賛に値するだろう。マライア・キャリーの出演も話題だが、この人、映画では初めてまともな仕事をした。なんだ、演技、できるじゃん!レニー・クラヴィッツも小さな役で出演し、いい味を出している。主役を演じるガボレイ・シディベの太り方は保険会社から警告を受けたというほどに異常。全くの素人をオーディションで起用したようだが、当時25歳だったというからびっくりですよ。ええ。

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