7/17/2010

The Secret World of Arrietty

借りぐらしのアリエッティ(☆☆☆)


さて、改めて説明するまでもあるまい、スタジオ・ジブリ製作の新作長編アニメーション映画である。今回、三鷹の森ジブリ美術館で上映された短編『めいとこねこバス』の演出を手がけた経験のあるアニメーター米林宏昌が監督に抜擢されたのが話題の一つである。

本作は英国のファンタジー小説(メアリー・ノートン『床下の小人たち』)を原作としているが、舞台を都下、小金井に移して脚色(宮崎駿、丹羽圭子)。御存知の通り、小金井といえば、現在のスタジオジブリの所在地である。冒頭に出てくる川辺の道は、野川のほとりの風景そのものだ。また、舞台となる庭や屋敷は青森の盛美園がモデルだそうなのだが、古い洋館のそこここに「江戸東京たてもの園」(小金井公園内)で見ることのできるお屋敷などの佇まいも透けて見える。

時代設定は現代ということになっているようだが、全体としては「少し前」の印象を受ける。それは、舞台となる洋館に住んでいるのは年をとった女主と家政婦だけで、周囲を広い庭と森に囲まれて、時間が止まった間があるからだろう。女主ののるメルセデスはかなり古いモデルだし、病弱な少年も、ベッドで本を読むのだが、ノートパソコンをネットにつないだりするわけではない。現代といいつつ、今という時代を感じさせるアイテムが画面にしゃしゃり出てくることはない。まあ、御伽噺なのだから、それでいいという考え方がひとつ。あるいは、小人たちにとって(翻って人間にとっても)生きづらい時代であることを印象付けるなら、またもう少し違った描き方もあっただろう。

物語は、屋敷の床下に住む小人一族の娘がたびたび外に出かけるうちに人間に見つかってしまい、新たな棲みかを探す旅にでることを余儀なくされるまでを、滅び行く種族である小人の少女と病弱な少年の出会いと別れを通じて描くものである。原作にある様々なエピソードを削り落とし、エッセンスをコンパクトにまとめているところに好感が持てる。

アニメーションとしてはさすがに丁寧で贅沢な作りである。特に、前半で小人らが「借り(=狩り)」をするシーンはアドベンチャー映画的で魅せる。キャラクターの魅力も十分に出ているし、水彩がかった美術の美しさも素晴らしい。突如起用された仏人セシル・コルベルが書き下ろした音楽がいい。本人がハープを使って演奏し、歌もつけるこの音楽、原作の舞台に通じるケルト風味なのである。音楽の出来栄えで作品の格がひとつ上がっているんじゃないか、と思えるほどに、この起用、大成功だったと思う。

全体として、小粒ではあり、少女趣味というか、女の子ターゲットの作品である。そのことが好き嫌いを分けるだろうが、まずまずの良作に仕上がっていると思う。場面によって小人の大きさがどうとでも見えてしまったり、音の聞こえ方の違いにこだわって作った音響も場面によってはご都合主義だったりするあたりは、もう少し何とかならないかとも思うが、逆に言えば、本当に力のある作品であればそんなことが気にならなくなってしまうはず。(むしろ、縮尺だのなんだのと、現実世界の物理法則に気を使ってちまちま作っていては面白いアニメーションにはならない。)そういう、有無を言わせぬパワーが感じられる作品には、そうそうお目にかかれないのだから、ないものねだりといえばそれまでのことだが、世間が「ジブリ」ブランドに期待するハードルの高さは尋常ではない。そんなプレッシャーのなかで、この水準の作品を仕上げた作り手は、良い仕事をしたと賞賛しておきたい。

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