3/20/2011

Tangled (Rapunzel)

塔の上のラプンツェル(☆☆☆★)

記念すべきディズニー・クラシック50作目の本作。ラセター体制に完全に移行してから 3本目。

こんなレベルの作品を見ると、一時期のディズニーの低迷は、本当に何を作って良いのか分からなくなってたのだろうな、と思わずにいられない。やるべきことがわかっているとはこういうことなんだろう。3D・CGI では初のお伽話&プリンセスもので、しかも、ミュージカル。内容面でも新機軸がいろいろある。しかし、それでもなお、これはディズニーが作るべき映画に思えるし、ディズニーじゃなきゃ作れない映画に見える。しかも、21世紀の新しいディズニーを感じさせるのだから、もういうことはない。

邦題で明らかなように、本作はグリム童話をモチーフにした作品だ。・・・が、例によって自由に、大幅な脚色がなされているあたりもディズニーの(悪しき?)伝統に則ったもの。揶揄気味にいってみたが、それは、本作に関していえば、決して悪い意味ではない。塔の上に幽閉されていた少女が、「母親」の呪縛を振り切って未知の世界に足を踏みだす自立の物語として再構成された21世紀のラプンツェルは、今という時代に受け入れられる物語になったと思うし、現代を生きる「女の子たち」に積極的に見せたいと思えるお話しになっている。時代に合わせた姿を模索してきた「ディズニー・ヒロイン」は、ここにきて、また一歩新しいステージに到達した。

日本のアニメーションからの影響は顕著である。まず何よりもキャラクターのデザインだ。ヒロインの目が大きく、日本的な感覚で見ても「可愛い」ことがあげられる。自由を求める気持ちと、良い娘として母親の言いつけを守りたいという相反する気持ちに引き裂かれて悩むヒロインの表現も、日本のアニメではよく見る定番ギャグの表現を咀嚼した結果だろう。垂直方向を活かしたアクション、屋根を飛び移る馬、塔の上のお姫様をさらう泥棒、といった宮崎駿オマージュもいっぱいである。そうした要素が(一時期のディズニーが平気でやっていたような)剽窃とは違ったレベルで表現されているのが好ましい。

一方で、マスコット・キャラクター的なカメレオンや、犬のような振る舞いをする馬といった動物キャラクターは、いかにもディズニーといった手慣れた感じがでている。なにより、ディズニーらしいといえば、ミュージカル・シーンだ。CGアニメーションに転換後は初めての試みだが、ブランクを感じさせない安定感は、やはり伝統のなせる技だろう。「母親」がヒロインを言いくるめようと歌うナンバーや、酒場で荒くれ者たちが夢を語るナンバーのシークエンスは、さすがにミュージカル・アニメーションとしての力があり、見応えも、聴き応えもある。「母親」役のドナ・マーフィの歌唱力も高い。ただし、アラン・メンケンによる楽曲全般についていうと、アベレージが高い彼の仕事の中では、平凡な部類に入ってしまうだろう。

CGIの技術では水だの髪だのといった従来難しいとされていたものの表現が格段に上がっているのを感じさせる。しかし、それよりなにより、人間のキャラクターの扱いや描写、表現の進歩である。ある程度マンガ的に誇張されているとはいえ、キャラクターの繊細な表情や感情表現などをかなり高レベルでこなしている。人間キャラクターの描写については昨年の『トイ・ストーリー3』も含め、ここまでできるようになったという点に感心するとともに、そうなると、次に問われるのは演出力、ということになるだろう。

3D字幕版での鑑賞。やっぱり、そこはほら、「ミュージカル」だから、オリジナル言語で聴きたいわけで、上映場所、回数が限られているとはいえ字幕番の上映をやってもらえないと困るのである。3Dでは空を舞うランタンが幻想的に美しい。奥行きだけではなく飛び出す効果も含めた演出もあって楽しいので、どちらかといえば3Dでの鑑賞をオススメしたい。北米タイトルは Tangled (もつれている)だが、字幕版の冒頭では Rapunzel と出た。こっちが international title なのだろうか。

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