7/24/1998

Jane Austen’s Mafia!

マフィア!(☆☆★)

『ホットショット』のジム・エイブラハムズが久久に手掛けるパロディ映画で、ロイド・ブリッジスの遺作となった作品。『ゴッドファーザー3部作』をモチーフに、主要参照作品に『カジノ』。あらゆるマフィア物を参照しながらナンセンス・ギャグを繰り出すいつものスタイルだ。

これがどうにも観客が入っていないようだ。こうしたパロディものが少々飽きられたのではないか、という懸念もある。しかもトピックが「マフィアもの」というのが、あまり一般の興味を引かない理由かもしれない。定番といえば定番だが、最近の流行りものというものでもないのが新鮮味に欠けるだろう。もうひとつ決定的なのは、この映画、実にムズカシいのだ。

まずタイトルがふざけている、が、外してもいる。もちろん、”Jane Austin’s”は、あのジェーン・オースティンのことで、彼女が原作の文芸ものが次々作られていることへの当てつけ、『ゴッドファーザー』のタイトルに”Mario Puzo’s” と原作者名がはいっていたことなどが理由だろう。

構成も複雑である。開巻、主人公アンソニー・コルティーノが車に仕掛けられた爆薬で吹き飛ばされてのオープニング・クレジット。そこから映画の時制は複雑に行きつ戻りつする。ドン・ヴィンツェンツォ・コルティーノのシチリアにおける少年時代とアメリカへの移民、2代目のアンソニー・コルティーノの少年時代、そして現在、オープニングに至るまでの経緯、その後の出来事、と少なくとも4つの時制がフラッシュバックでつながれて行く。もちろん、スコセッシの『カジノ』、『ゴッドファーザー』サーガが土台になっているわけだから、この複雑な構成は意図的なものであり、それ自体がパロディというわけだ。しかし、気楽に笑いに来た観客の頭を混乱させるのは間違いない。

さらに、ストーリーも複雑。ただのパロディの連発よりも、それなりのストーリーラインがあったほうが面白いというのは、ZAZの過去作の進化を見ていればわかることだが、キレた薬中の兄、対立する組織のボス、世界平和を実現させようとする前妻や、シャロン・ストーン風のアバズレを巡って入り乱れる物語は、度々のパロディで流れが堰き止められることもあって、ややこしく感じられる。

クライマックスはアンソニーと、前妻の盛大な結婚式の影で、幾重にも繰り広げられる暗殺の嵐が巧みなモンタージュで編集されている。もちろん、バチカンでの暗殺とオペラがかぶる、例の”PART-III” のスリリングかつ複雑なシーンの再現だ。ものすごく意欲的なのだが、力の入り具合が見えるだけに少々息苦しくなってくる。

要するに、本作におけるパロディの対象が単純な映画のシーンというだけでなく、作品の構成やスタイルにまで及んでいるのである。これには正直、唸らされると同時に、この映画に求められているものとは違うのではないか、と思わずにはいられない。観客はこの映画についてきていないと思うぞ。

かとおもうと、どうしようもないベタベタな駄洒落や、幼稚な下ネタも満載。観客は主にそういうところで反応しているのだけれど、どうにも標準的な観客の知性を通り越して高度な技を使いすぎてしまったのが興行的な敗因であり、作品的な失敗と見る。だってさ、観客が一瞬考える、その瞬間に笑うタイミングを逸してしまうんだよね。

・・・しかし書きながら、もう一度見たくなってきたな、これ。(1998/7)

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