10/23/1998

Apt Pupil

ゴールデン・ボーイ(☆☆☆★)

ハロウィーンのボックスオフィスには『チャッキーの花嫁』のように血まみれの派手なホラー映画の方がお似合いだ。地味なキャストで死体が一つ、しかも残酷シーンは巧妙に画面の外に押しやって見せたこの作品は観客を呼びこむ訴求力がない。キングのファンも云うだろう、あのシーンがなかった、このシーンもなかった、何であんな結末なのか、分かっていない、物足りない、と。

そう、これは、『スタンド・バイ・ミー』の原作 (“The Body”) も収録されたスティーヴン・キングの傑作中編集「Different Seasons」からの待望ノ映画化作品である。『ユージュアル・サスペクツ』のブライアン・シンガー監督が97年に撮り上げていたが公開が先延ばしになっていたもので、出演はブラッド・レンフロとイアン・マッケランである。

田舎町に住む好奇心の強い優秀な少年が、近所に住むドイツ訛りの老人が実はナチスの戦犯で、アウシュビッツの虐殺などに関与していたことをつきとめる。この「熱心な生徒」は証拠をネタに老人を脅し、過去の体験談を聞き出していく。ユダヤ人虐殺の様子を語るうち、次第に葬り去った過去が蘇ってくる老人と、悪夢にさいなまされながら、何かが変わっていく少年。そういう話である。

この映画は、観客に想像力を要求する作品である。もし、それが可能なら、実はなかなか恐ろしい映画に仕上がっているのではないか、と思う。血のりや殺害シーンなど、グラフィックな恐怖をすべて切り捨てたところに、戦慄が残った。作り手に自信がなければできない判断ではないか。

ブラッド・レンフロとイアン・マッケランは息詰まる演技を見せて完璧である。次第に内部から決定的な変化を遂げていく少年をきっちり演じられるレンフロは、なかなか見所がある。達者な子役から、青年俳優への難しい転換期にあって、この先も期待したいと思う。一方、初めはしょぼくれた老人として登場するマッケランの、やがて発散させる異様に迫力のある凄みも特筆ものである。

これはそんな2人の、「父親と息子」の物語でもある。少年が老人の家に出入りし昔話をせがむ。2人は次第に親しく、小さな秘密を共有するようになる。やがて老人は病に倒れ、少年は大人になる。そんなクリシェを作為的にひっくり返していてみせるのがこの作品。なにしろ少年が老人から継承したのは悪と云う怪物なのだ。

老人の話に聞きほれるうち、少年は怪物に心を蝕まれていく。老人にとってもそれは記憶の底に埋めた過去でしかなかったが、少年に語り聞かせるうち、それは活きた「怪物」になる。二人はお互いを脅す。しかし脅し脅される関係と同時に存在するゲイ・テイストさえにおわせる親密さ。(もちろん、片方がイアン・マッケラン故に、そして、監督がブライアン・シンガーであるがゆえに、その気配は濃厚に漂うのである。)

やがて怪物は「過去」の存在ではなく、現実の「恐怖」となる。怪物は現在の生活を侵食し、やがて少年は心の中に怪物を飼うようになっていく。

原作を随分刈り込んだが、精神的には比較的忠実な脚色だと感じさせる。そこかしこにはっとさせる冴えたサスペンス演出があり、何でもないシーンで画面に力が満ち溢れている。ホラーという言葉やスリラーという言葉でくくりきれないこのドラマは、もしかしたら金曜の晩にひとりで観るのに相応しい。映画館の暗闇が似合う作品だ。

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