10/23/1998

Pleasantville

カラー・オブ・ハート(☆☆☆★)

未来は予測がつかないから素晴らしい。そう、心から思いたくなる作品である。

全てが完璧な理想的家族とコミュニティ。火事はなく、雨は降らず、浮浪者はおらず、セックスも知らない。とうぜんエイズはなく、そしてなにより・・「白黒」だ。そんな50年代のテレビ番組 ("Pleasantville") 世界に入り込んでしまった現代の少年・少女らが「無菌状態」のコミュニティに持ちこんでしまった「何か」。それによって変化を強要される町の人々の混乱をコメディタッチで描くファンタジー映画である。

本作は、『ビッグ』、『デーヴ』の脚本化として知られるゲイリー・ロスの、製作・脚本を兼ねた監督デヴュー作。トビー・マグワイア、リース・ウェザースプーンに加え、ウィリアム・H・メイシー、ジョアン・アレン、JT・ウォルシュ、ジェフ・ダニエルズら演技派が脇を固めるキャスティングだ。

この作品、最近良くある懐古趣味かと思えば、そうではない。むしろ、それとは正反対に、変化を受け入れ、その先に進んでいくという価値観を、メッセージとして発信しようとしている作品である。それと同時に、最初の1歩を踏み出すのに必要な勇気についても語っている。そんなストーリーの中で、感情について、個性について、個人の意思についての力強い物語が展開される。

その前提として、「イノセンスの喪失」が語られる。何も知らず、知らないことで平和に、幸せに暮らしていた人々がそうではいられなくなる。エデンの園にもたらされた知恵の実、それがここでは本物の感情だ。テレビの世界に入ったとたんに白黒映画となってしまうこの映画は、町の人々が感情を手に入れるにしたがって色彩を取り戻していく。この映像表現は単純な思いつきに思われるけれども、何とマジカルだ。

ゲイリー・ロスは失われたイノセンスに対する郷愁を描くが、先に述べたように、これは過去をひたすら賛美し、そこに戻ろうとする映画ではない。『ビッグ』を思い出すといい。大人の姿をした主人公と恋に落ちた女性は「子供の世界は、もう一度体験した」といい、最後には彼女自身の属する世界に戻っていったではないか。今回の映画はそこから一歩進めて、我々が得たものについて、我々が得る未来について語ろうとしているように思えるのである。

変化しないのが当たり前であった世界にもたらされた「変化」に直面した人々。予測のつかない将来に対する動揺、恐怖、拒絶、希望などは、そのまま現実を生きるわれわれの姿と重なる。そして誰もが持っている経験-始めての体験に胸を躍らせたり、不安に怯えたりしたことを思い起こさせもする。

出演者はそれぞれに見せ場があり、ここ一番では誰もが最高の魅力を振り撒いている。中でもジェフ・ダニエルズはキャリアで最高の役どころではなかろうか。不安におののきながらも凛として自らを貫く役のジョアン・アレンの繊細な感情表現にも打たれたが、変化を恐れる頑固な保守派を演じて映画を引き締めたJTウォルシュにも喝采だ。

メッセージを声高に主張するのではなく、コメディとしてさりげなく提示するセンスとバランス感覚。それは、ゲイリー・ロスの過去の脚本作品でも証明済みだ。脚本家出身の監督にありがちな律儀さはあるが、本作のテイストはまさしく、彼の脚本作品で感じられたものと同じ。大いにオススメしたい一本である。

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