10/19/1998

Holy Man

ホーリー・マン エディ・マーフィはカリスマ救世主(☆☆★)

仕事を失う危機にあるTVプロデューサーは、新たにパートナーを組まされたメディア・コンサルタントとともに、TVショッピング専門局の建て直しを図ろうとするが、そんな折りにであった正体不明の「聖人」を番組に出演させてみたら、彼の本音トークが大当たり。TVショッピングはいつしか宗教的体験の場に変わっていく。

その「聖人」を演じるのはこの男、エディ・マーフィ。

そうなると、大方が期待するのは、マーフィが主演でペテン師かサギ師の似非宗教家を演じ、ジェフ・ゴールドブラム演じるTVプロデューサーの生活を掻き乱す、そんな爆笑コメディなのではないか。ところがこの映画は反対に、主人公ゴールドブラムのもとに素性の分からないマーフィが現われ、仕事と人生に行き詰まっていた中年男の心を開き、魂を救済して去っていく。これはなんだか、出会いと別れ、再生の物語なのである。

脚本は、『いまを生きる』などで知られるトム・シュルマンである。彼が書いた『おつむてんてんクリニック』という作品があって、リチャード・ドレイファス演じる精神科医がビル・マーレー演ずる患者に掻き回され精神的に壊れてしまうという話であった。本作は、どうも、それと表裏一体の構造にある。主人公が壊されるかわり、生を取り戻すのである。

一方、視聴者のいらないものまで売りつける行き過ぎた商業主義の現実を、エディを通じて批判して見せる。それに終わらず、そうしたホンネが逆に大人気を博し、なんと商品の売上が爆発的に伸びたりする顛末は、完全に風刺コメディである。ここのギャグにもう少しキレがあったら、毒があったらなぁ、と思わずにはいられない。

マーフィ演じる「聖人」は、最後まで正体不明であるが、裏が有りそうで、なさそうで、しかしやっぱり裏がない。ビョーキだがピュアな心の持ち主だったマーレイと同じように、このキャラクターも純粋な存在である。力みの抜けたエディ・マーフィは、これこそが新境地といえるような、新しさを感じさせられる。

コメディとしての出来上がりは中途半端に感じるが、ピリッとした批評精神と妙に爽やかな後味、後半に向けた物語の加速感は、捨てがたい。魅力的な失敗作というか、意外な拾い物、としておこう。スティーブン・ヘレック監督作って、その程度の作品が多いんだよな。

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