5/20/1999

Notting Hill

ノッティング・ヒルの恋人(☆☆☆★)

『スター・ウォーズ』の公開に湧く映画館で、「スター・ウォーズになんて興味がないよ」という観客を当てにして公開日をぶつけてきたロマンティック・コメディだ。どっちにも興味がある当方としては、無論スター・ウォーズが優先だが、こちらに足を運ぶのを忘れるわけにはいかないのである。

ロンドン市内で小さな旅行書専門店を開いているのがヒュー・グラント演じる主人公である。その店に、イギリスを訪問中だったジュリア・ロバーツ演じる「ハリウッドの大人気女優」がふらっと立ち寄ったことから始まるお話し。偶然の再会、人目を避けた秘密のデート、何度か出会いを繰り返すうち、どんどん惹かれ合っていく2人。全く違う世界に住むこの二人の可笑しくもロマンティックな恋模様。ヒュー・グラント主演の『フォー・ウェディング』で名を売ったリチャード・カーティスの脚本で、ロジャー・ミッチェルが監督している。

もちろん、あまり現実味のない話だが、ロマンティック・コメディというやつは、そういう現実味の欠如ゆえに輝きを増すことがある。この映画はそんなケースの一つだ。人気女優がノッティングヒルのさえない男に惹かれていく理由やその過程が、必ずしも十分に描かれているとはいえないけれど、そんなことがあっても不思議ではないな、と思わせたら勝ち。そんなことがあったらいいな、と思わせたら大成功だ。クライマックスは記者会見だ。そう、記者会見である。もちろん、こういう設定の先達たる『ローマの休日』を重ねているんだろう。

主演二人の夢物語に終わらせず、脇役を丁寧に描く脚本がいい。主人公と同居している調子ハズレのアーティストや、主人公の兄妹、さらにはホテルのフロントマネージャーなどがある意味、たいへん愛情を持って描かれ、人間味のあるキャラクターになっていて、とても良い味を出している。こういう日常的な世界をきちんと構築してあるから、大胆にも「ハリウッドの大人気女優」を連れこんでくる面白さが活きてくる。


『プリティ・ウーマン』で人気が爆発してから10年、一度は沈んだキャリアでありながら再び最前線に戻ってきたジュリア・ロバーツは、もともと持っていた「親しみやすさ」に加え、一種の貫禄がでてきた。これは第2の黄金期といって差し支えないんじゃないか。ハリウッドの超人気女優という役を説得力を持って、悪びれずに演じて見せて、華もある。セリフの中で現在ギャラが一番高い(しかし下り坂の)女優の一人であるデミ・ムーアの名前を口に見せるあたりで、笑いをとりつつも、自信を感じさせる。

一方のヒュー・グラントは実に器用な人で、今回も絶妙の間と台詞回しで笑わせてくれる。実際はどうだか別として、「ちょっと頼りなさげで冴えないけれど、誠実そうな」人物を演じて実にハマリ役。夢の中から現れたような事態に心ときめかせ、じたばたし、夢から覚めてため息をつきもする。等身大の「恋する男」の説得力が全身から滲み出しているのだ。

思い切り笑わせながら、ドタバタ寸前で止める演出のさじ加減もいい。ロマンティックで軽快、非常に楽しい作品。四つ星をつけてもよかったかな、と思う。このジャンルが嫌いでないなら、ぜひお薦めしておきたい一本である。

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