2/07/2009

High School Musical 3 : Senior Year

ハイスクール・ミュージカル ザ・ムービー(☆☆☆)


いや、びっくり。こういう映画の日本での興行価値ってどうなんだろうと思っていたら、中学生、高校生くらいまでの女の子で劇場が埋まっているのな。ああ、かつてならこういう層の観客が、海外のアイドルやスターにあこがれて、「スクリーン」や「ロードショー」を買っていたんだろうねぇ、、、。今や絶滅した観客層だと思っていたよ。前売り好調という話は聞いていたけれど、いつのまに浸透していたんだろ?

さて、このシリーズ。もともとは米CATV「ディズニー・チャネル」が製作、放映したオリジナルTVムービーであった。この出来栄えが存外によいものであり、しかもビデオやCDを併せて記録破りの大ヒットを飛ばしたことから、舞台版に加え、続編2本を製作、3本目は劇場作品として製作・公開するという大プロジェクトへと発展したのである。そんなわけで本作の原題には「3」とある。経緯を知らない観客はいきなり画面に「3」とでたらびっくりするかもしれないが、まあ、先立つ2本をみていなくても鑑賞の妨げになるほどの障害にはならないので大丈夫。

ところで、最初のTVムービーは、ハイスクールにおけるミュージカル製作をテーマに置いた「ミュージカル風」の作品であり、ストーリーの良さと楽曲の良さが相まって、ちょっとした拾い物として面白く鑑賞したことを覚えている。敢えて「ミュージカル風」と書いたのは、スタイルとして本格的なミュージカルと、たとえば80年代の大ヒット作(で、変則的なミュージカルでもある)『フットルース』の、いってみればちょうど中間あたりを狙ったような作風だったからだ。キャッチーなポップソングに乗せて主人公らが歌い踊るシーンをアクセントにしながらテンポ良くストーリーを語っていく手法には、ミュージカル入門編的な趣きがあった。このスタイルは、シリーズを通じて本作にまで受け継がれている。(ちなみに第2作も見ているのだが、夏休みのアルバイト先であるカントリー・クラブを舞台とし、青い空、緑の芝生にプールと、開放感溢れる映像の魅力で新鮮味を出そうとしたが、とっちらかったストーリーにしろ、いまひとつパンチの欠けた楽曲にしろ、人気に便乗していかにも急造した感が拭えず、あまり感心しない作品であった。)

そして満を持して登場の第3作。サブタイトルに「Senior Year」とうたっているとおり、高校生活の区切りとなる最終年度、卒業をひかえ、恋や進路に悩む主人公らの姿を描いてシリーズに区切りをつけるものになっている。バスケットボールの才能を評価されて地元アルバカーキ大(字幕ではABQ)からオファーをもらってはいるが、舞台の楽しさにも目覚めてしまった主人公と、遠隔地の名門スタンフォード(同じく字幕ではST)への進学が決まっているヒロインのカップルを中心に話が展開。学園もの映画の定番かつ華であるシニア・プロム、卒業制作ミュージカルの舞台をクライマックスに、卒業式で大団円というようにネタが揃っているのだから、盛り上がらない方がおかしい。実際のところストーリーの求心力と楽曲の魅力で「1」にはかなわないが、劇場版ということで製作規模もある程度大きくなっており、華やかで楽しい作品に仕上がっている。

そうはいっても、いくつか残念なところはある。その中でも最大のものは、プロムの扱いだ。見せ場が分散するのを避けたかったのか、卒業制作舞台のシークエンスとの重複を避けるためか、ここを「プロムに出席せずにスタンフォードまでクルマを飛ばした主人公と、大学の事前オリエンテーションに参加していたヒロイン2人だけのシーン」で置き換えてしまい、いってみればプロムをそっくり全部「割愛」してしまったのだ。それまでのストーリーのなかで、チケット販売にはじまり、意中の相手を誘う苦労なども盛り込んでいるのだから、これは構成上の大きな問題だと思う。楽曲や歌詞の工夫で学校の中で起こっている出来事と、2人だけのシーンをカットバックするなりなんなりのやりようはあったはずなのだが、「ミュージカル風」であるこのシリーズの単純な「スタイル」では、そうした複雑なシーンを組み立てるのは難しかったのかもしれない。他にも、その「スタイル」ゆえといえるのだが、見せ場を作るためだけのようなミュージカル・シークエンス(ミュージカル嫌いが云うところのいわゆる「唐突にうたって踊りだす」)の挿入なども気になった。まあ、このあたりを出演者のフレッシュな魅力と勢いで乗り切ってしまうところがシリーズの魅力でもあるので、洗練されたミュージカルを求めるのはお門違いだと目をつむっておくことにする。

「ハイスクール」というわりには、今日的な課題と無縁のあまりに健全で明るい理想的な学校生活で、優等生の美男美女が主人公では面白くもなんともないと揶揄されるかもしれないが、それはこれが「ディズニーもの」であるということだけでなく、主として中学生や小学校高学年くらいの背伸びがしたい子供たちを想定観客層として作っていることを考えればこれが自然な作り方であり、批判には当たらない。また、このシリーズの主人公が「バスケット・ボールで活躍する人気者で、本作ではチームのキャプテン(のひとり)で人気者」であるのが気に入らない向きもあるようだが、確かに、典型的なハイスクールものでは、学校社会の底辺や周辺を主人公にして、いわゆる「Jocks」を仇役にするのが通例であることを思うと珍しい部類であるとはいえよう。ただ、こういう主人公が悩んだ末にスポーツ馬鹿一本やりの道を選ばないことや、芸術家肌の友人や、チア・リーダータイプではない聡明なヒロインと互いを認め合っていくような描き方がなされているところがポイントなんだけれどね。

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