7/03/2011

The American

ラスト・ターゲット (☆☆☆★)


平凡な暮らしの喜びに目覚め組織を離れようとした凄腕の殺し屋が、潜伏先であるイタリアの山里で、最後の仕事として請け負った特殊な銃の製作とその顛末。オランダ出身の写真家、アントン・コービンが抑制された寡黙な激渋タッチで描く、クライム・サスペンス・ドラマ。主演はプロデューサーにも名を連ねる、ジョージ・クルーニー。異国の地、訳ありのその男、アメリカ人。("The American")。米国では端境期の公開だったとはいえ、こういう映画が瞬間でも週末興業トップに立つって、すごいなぁ。

雪のスウェーデンからローマ、そしてイタリア中部の城塞都市、カステル・デル・モンテへ。スターのわがままによる、風光明媚な場所を舞台にしたよくある観光映画の一種かと思えば、そうではない。もちろん、坂道が多く、中世の遺物かと思うような石畳の路地や階段、建築物が残る古い町が醸しだす雰囲気と光景は、陽光に輝くイタリアというイメージを裏切ってとてもユニークだ。しかし、それが主演スターやドラマを差し置いて映画の主役に踊り出ることはない。絵葉書のようにきれいなこれ見よがしの映像はないが、ただただ異国の地に一人潜伏する主人公を封じ込める迷宮のようであり、あるいは、孤独な心を静かに解きほぐしていく舞台装置として非常に興味深い効果を生み出している。そういう意味で、ジョージ・クルーニー演ずる主人公が寡黙なら、映画の作り手もまた、とても自制的に映画をコントロールしている。

裏稼業を抜けようとする主人公に待ち受ける過酷な運命は、もはや定番中の定番である。また、友人を作ることすら許されなかった男が、米国にあこがれを持つ屈託の無い娼婦に惹かれていくのもまたお馴染みの展開。しかし、この映画はそういう使い古された定番を重ねながら、なんと、主人公が客の注文に合わせてショットガンの威力とライフルの射程を持つ特殊な銃をカスタム製作するという、なかなかマニアックな描写に時間をたっぷりと割いて見せる。自動車修理工場で手に入れた道具や部材を使って銃と弾丸を仕上げていく男。単に殺しに長けているだけではない、熟練の職人。こういうところがこの映画の面白さで、派手なアクションを期待すると肩透かしを喰らうだろう。

ジョージ・クルーニーにしては珍しく、寡黙な男を演じている。本当は、もっと地味めな役者の方が似合うのかもしれないが、さすがに、これは大スターのクルーニーなしには成立しない企画だろう。それ以外は普段目にする機会の少ない役者ばかりなのだから。カスタム銃を依頼する女スナイパー、主人公が心を動かされる若い娼婦ともに美しく、映画の華になっている。連絡係(というか雇い主)や、町の神父など、実に渋い顔つきだ。クルーニーがいなければ、アメリカ映画でありながら、ここにはアメリカ映画の空気はない。まるで欧州映画にひとり迷い込んだアメリカ人、クルーニー。ゆったりとしたテンポで、しかし、緊張感は維持したまま、決められた結末に向けて話を紡ぐ監督の手腕や見事。

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