6/09/1998

City of Angels

シティ・オブ・エンジェルズ(☆☆☆)

女性外科医マギーが患者を手術台の上で死なせてしまう。自分の過失ではないのだが、精神的に大きな痛手を負ってしまった彼女を、みつめていたのは、時に人の死を見取り、励まし、導いている数多くの天使たちの一人、セスだった。彼女に恋をし、力になりたいと強く願うようになった天使は、やがて彼女の目の前に姿をあらわすようになる。メグ・ライアンとニコラス・ケイジ主演で、『キャスパー』でデビューしたブラッド・シルヴァーリングが監督を手がける、『ベルリン/天使の詩(Wings of Desire)』のハリウッド版リメイク。

これは天使の街、Los Angels を舞台にした、不思議な空気感と切なさの残るファンタジーである。もちろん、ヴィム・ヴェンダースのリメイクだからというのもあるが、アイディアを借用してかなりの脚色をされているのにもかかわらず、ハリウッド映画の基準からみると、この映画、かなりの異色作といってもよい。

全体を覆う現実離れした空気感、切ない雰囲気と展開、説明の省略、流れるようなカメラ、美しいヴィジュアル・イメージ、やわらかな光。どれをとっても監督の前作である典型的ハリウッドお子様ランチ映画とは無縁のように思われる。音楽(ガブリエル・ヤード)もまた、強く自己主張するのでなくこのファンタジー世界を膨らませ、柔らかく支えるのに貢献していて、全身が映画の世界にやさしく包み込まれているかのように感じる。こんなに繊細なタッチのアメリカ映画は本当に珍しい。

もちろん不満を言えばいろいろある。本作では、天使にとっての「世界」と、われわれ人間の「世界」をヴィジュアルで区別していない。そのことで、天使が感じる人間の世界の「新鮮さ」を、観客に上手く伝えきれていないのではないだろうか。スター共演の恋愛映画に仕立てるためか、2人の共演シーンを多くするために採用したと思しき設定(天使が自分の意志で人間の前に姿を現すことが出来る)や構成が、いまひとつ機能していない、などなど。

この映画ではそういう欠点を役者の魅力と演技が補っているのだろう。映画の世界にのめり込みそこなった観客にしてみれば「クサい演技」、ということになるかもしれない。ニコラス・ケイジのしぐさ、表情のひとつひとつが、この一独特の演技で表現されている。この天使が、感動と驚きと喜びに満たされていくさまは、本作における重要なポイントのひとつだが、原典のような白黒とカラーの使い分けがないから分かりにくくなっているのはそうだが、ニコラス・ケイジのオーバーアクトがそれをなんとか補完しているようには思うのである。

また、「天使の片思い」から「2人が恋に落ちていくプロセス」に重点をおきかえた構成により、メグ・ライアンの魅力的な表情が活きた、ともいえる。元来、コメディタッチの作品で本領を発揮する彼女だが、たまにはこういう役もいい。

リメイクものはどうしてもオリジナルと比べられ、欠点ばかり目立つ結果になる。本作もまた、オリジナルを超える評価を得ることはあるまい。それどころか、どちらかといえば、存在を忘れられていく運命の作品なのかもしれない。しかし、この映画は主演スターである二人の魅力を活かしつつ、他のハリウッド映画にない独特の雰囲気を持つ作品に仕上がっており、その頑張りについては好意的に評価したい。ブラッド・シルバーリングの次回作には期待しておくことにしよう。

また、ガブリエル・ヤードの楽曲が良いことは先に触れたが、それ以外に売れ筋のアーティストの挿入歌も多数収録したサントラがのなかで、少し不思議な響きを持ったアラニス・モリセットの唄う"Uninvited"が面白い。作品中ではエンドクレジットの頭のところで流れるのだが、どこか、本作の作品のトーンを決めるのに貢献しているんじゃないか。なお、予告編で盛んに流れたポーラ・コールの曲はサントラ未収録、本編未使用である。(1998/6)

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