トゥルーマン・ショー(☆☆☆☆)
トゥルーマンは、典型的な小市民。しかし、彼の生活には普通の生活とは全く異なる点があった。生まれて以来30年の私生活のすべてはカメラによって極秘裏に撮影され、24時間ノンストップのライヴショーとして世界中の茶の間に今日も届けられているのだ。 人気コメディアンのジム・キャリーが主演。『刑事ジョン・ブック』や『いまを生きる』のピーター・ウィアーが久々に監督を手掛けた作品である。脚本は『ガタカ』のアンドリュー・ニコル。
完璧にコントロールされた巨大なスタジオという隔離世界、作為的に作られた主人公の過去、性癖。世界中の人々にとってはこの30年、何も知らないトゥルーマンの一挙一動が関心事。囚われの身である彼に真実を伝え開放しようと活動する人々・・そんな超現実的プロットはまるで『トワイライト・ゾーン』かなにかの一挿話が大掛かりになった印象。
事実、いつもの能天気なジム・キャリー映画を期待した観客は、大きなショックを受けることだろう。ナンセンスといってもかまわない設定。プロットだけを聞くと馬鹿げたドタバタ作品とも受け取れる。ところが、映画は予期せぬ展開を見せ、笑いが肌寒さに、陽気さが痛々しさに転化していく。そして、最後には予期せぬ感動の高みに観客を誘う。これは、単なるマスコミ批判とかいったレベルの作品ではない。
映画の中の悪役は番組のプロデューサーだが、これが単なる悪役に留まっていない。生まれたばかりから30年間にわたって主人公の世界を創り上げ、彼の生活を見つめつづけてきた神、そして、無二の父親。その名も「クリストフ」。彼の、彼なりにスジの通った倫理観と、主人公に対する愛情。それが単なる「メディアという巨大な権力の陰謀もの」とは異なるテイストを作品に与えている。これを演じているのが名優、エド・ハリス。会心の演技だ。
事前の宣伝で「すべてネタばれ」という状態から出発したこの作品は、サスペンスと衝撃を捨てて「神と人生」テーマに力技で持っていく。自分の信じていた世界がちゃちなつくりものに過ぎないことを悟った主人公の切なさを、ゴムの顔を持つ男が絶妙の表情で見せた。この世界を脱出して、その先に何があるかも分からない。しかし主人公は父親の庇護の下を離れ、自らの道を歩もうとする。あえてその先を観客の想像に委ねた演出は、意地悪くもあり、思いやりに満ちてもいる。想像を絶する傑作を手にしたジム・キャリーの今後のキャリアが非常に楽しみになった。 (1998/6)
0 件のコメント:
コメントを投稿