12/23/1998

You've Got Mail

ユー・ガット・メール(☆☆★)

ここのところ、北米のインターネット接続事業者として勢いがあるのが ”AOL” こと「アメリカ・オンライン」という会社で、簡単接続や簡単設定のソフトウェアを収めたCD-ROMをダイレクトメールで送りつけては会員を増やし、旧来のパソコン通信事業者を駆逐しているみたいだ。そこの電子メール・ソフトは、メールが届くと “You’ve Got Mail !” と音声で教えてくれるんだな。

・・・というわけで、それがタイトルになったこの映画、アメリカ・オン・ラインの壮大なる宣伝映画なんだよね。臆面も無く。

それはともかく、『めぐり逢えたら』のノーラ・エフロン監督の新作は、エルンスト・ルビッチ往年の作品である 『A Shop Around The Corner』 のリメイクだということだ。主演に、『めぐり逢えたら』の主演コンビ、トム・ハンクスとメグ・ライアンを再び起用。まあ、それだけである程度の観客は集まるだろうね。

NYで小さな子供向けの専門書店を営む女性とオン・ライン・チャットで知り合い、メールの交換をするうちに好意が恋に変わっていく相手は、巨大ディスカウント書店の経営者。現実世界の商売敵はサイバー世界で恋に落ちている。先にメール相手が誰だか気付いた男は、現実世界で嫌われている相手にどう正体を明かしたものか悩むことになる。

安心して見ていられる作品ではある。話もそこそこ面白いし、主演二人は観客に愛されている。これだけそろえば、週末の「デート・ムービー」としては満点に近いんじゃないのかな。

でも、観客の予想を超えるものは何一つない。見る前も、見終わっても、全く観客の人生に変化がない。脚本家としては冴えた台詞を書き、細かい気配りのあるシーンを作るノーラ・エフロンだが、監督として相変わらずかったるい。演出家としては世間は過大評価気味。同じ脚本をもっと巧い職人監督に任せた方がいいんじゃないだろうか。

気の利いた台詞と古風なロマンティックコメディのかっちりした枠組みがあって、息が合った、しかも観客にも愛される完璧なキャストがいるんだから、何かをやって失敗するより、なにもやらないというのは賢い判断のように思えないわけではない。でも、演出が演出の仕事をしていないから、こんなシンプルな話がずるずると2時間超の大作になってしまうのだ。軽いロマンティック・コメディがこんなに長尺になる時点で、勘違いといっておく。これを1時間半でまとめてくれたらもっと良い印象になるのにな。

わざわざグレッグ・キニアまで起用した脇役に全く意味が無いとか、よくよく考えると無駄なシーンやキャラクターだらけなんだよね。どのみち主役2人の関係に話を絞っていくのであるから、こういう余計な脂肪をすっきり切り捨てて、きちんと整理整頓すれば見違えるくらい面白い作品になるはず。

本作で一番の魅力はやっぱりこの人、メグ・ライアン。それなりの年になってもこのひとのキュートな魅力は色褪せない。彼女の一挙手一動作が実に楽しいし、観客が彼女に期待する全てを出し惜しみなく見せてくれていて気持ちがいい。最初の登場からイキイキしていて、彼女のコメディ演技ではベストのひとつ。嘘っぽい描写ではあるのだが、AOLに接続するくらいで妙にうきうきしているところなど、彼女の仕種を見ているだけで楽しいから、リアリティが無くても許せてしまう。もう一方のトム・ハンクス、最近の体型も、演技も、少し鈍重で、イマイチだと思う。

0 件のコメント:

コメントを投稿