8/21/2008

The Incredible Hulk

インクレディブル・ハルク(☆☆☆)

一応、北米で1億ドル級の興行成績をあげたアン・リー監督版『ハルク』の記憶も薄れてはいないというのに、早くも「仕切りなおし版」ハルクの登場である。そこそこのあたりをとったとはいえファンらからのブーイングの声が大きかったのだろう。シリーズとして続行するには問題があると見るや、なかったことにして作り直してしまうあたりをフットワークのよさというべきか、他にネタがないからと見るべきか。いずれにせよ、マーベル・コミックにとっては重要なキャラクターを半死の状態で放置するわけにはいかないということなんだろう。

今回の仕切り直しでは、小気味のよいB級アクション『トランスポーター』シリーズやジェット・リー主演の『ダニー・ザ・ドッグ』で名を上げたルイ・レテリエを監督に指名したあたりが、そもそも名匠アン・リーとは方向性が違うよ、という強いメッセージを発している。まあ、それだけならわざわざ見ようとも思わないのだが、主演に連れてきたのは曲者エドワード・ノートンで、しかも、一読した脚本がくそつまらんからと、(クレジットこそないものの)ほとんど全部、自分で書き直してしまったというエピソードを聞いて、俄然興味がそそられたのである。とはいえ、のんびりしているうちに上映スクリーン、上映回数がどんどん減らされて、追いかけが大変だったのだが、あいかわらずこの手の映画は日本で受けないねぇ。

アン・リー版ではたっぷり時間をかけて描かれたハルク誕生に至るパートを、「作り直すたびにそこからやり直すのでは面倒くさいよね?」とでもいわんばかりにバッサリ切り落とし、回想シーンで処理するあたりがいい感じだ。映画が始まった段階で、主人公は逃亡先ブラジルに潜伏中なのだ。心の平安を手にするための修行に励みつつ、元に戻るための研究を続けていた主人公だが、思わぬ手掛かりによって居場所を突き止められ、映画はあっという間にスリリングなチェイスに突入。観客がひととおり飽きてきたくらいのタイミングで緑の怪物が「うがーっ」と登場、追っ手を蹴散らす・・・という、この映画の導入のテンポの良さは娯楽映画として好スコアをあげたい。多少ガチャガチャしたアクション演出も不問とする。これで波に乗った映画は、追手の先頭にたつティム・ロスが変貌した化け物と、ハルクの一騎打ちまで一気に突っ走る。

アン・リー版の「人間ドラマ」路線が重くてかったるかったとはいえ、それを抜きには原題のコミックヒーローものが成立しないのもまた事実。当然、そのことを分かっている作り手たちは、観念的な禅問答やらを抜きにして、それらを全部ひっくるめて主人公とリヴ・タイラーの関係、二人の葛藤とラブ・ストーリーへと、とても分かりやすく収斂させているのが脚本のうまいところだろう。クライマックス、醜く変貌したティム・ロス怪物と、われらが緑の怪物の一騎打ちは、巨大な肉の塊がぶつかり合う激しいアクション・シークエンスになっているが、街を破壊しながらの大アクション・シーンは、まるで怪獣映画を見ているかのような迫力と面白さ。クレバーなノートンと、荒削りながらパワフルでスピード感のある演出を見せるルイ・レテリエという組み合わせは、想像以上にいい効果を生んだようだ。

エンディングのあとで、本国ではこれに先立って公開された『アイアンマン』の主人公が顔を見せ、マーベルヒーロー大集合映画への布石を打っているのでお見逃しなく。

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