2/12/1999

October Sky

遠い空の向こうに(☆☆☆☆★)

”October Sky(原題)” のアルファベットを並べ替えると “Rocket Boys(原作)” になるんだね。 大きな宣伝もなく、年明けにひっそりと公開された作品なんだけど、口コミで息の長い興業になるといいなぁ、としみじみ思った傑作。

1957年10月、ウェスト・ヴァージニア州の炭坑町にもニュースが走った。ソビエト連邦が人類史上初めての人口衛星「スプートニク」の打ち上げに成功したのだ。輝くような未来も希望もなにもない閉塞的な毎日を生きていた少年たちがそのニュースに触発され、「ロケット」を自作する夢を実現させようとする。

舞台は、斜陽で出口の見えない閉塞的な炭坑町なのだ。その町で育った子供たちは、スポーツで奨学金をとることぐらいでしか、町を出ることなんて考えられない。高校を卒業したら、父親たちがそうであるように、危険な肉体労働につく未来が待っている。いや、未来があるかどうかもわからない。石炭産業自体が斜陽しつつあるからだ。過酷な現実のなかで、自作ロケットを飛ばすという夢を持った少年たちが、周囲の励ましや協力を得ながら諦めず、自分たちの意思を貫き通そうとする。

親子の対立、周囲のさまざまな大人たちとの交流を通して、自らの進むべき道を模索する青年期の普遍的なドラマだが、「地下に潜りススだらけになる炭鉱作業の現実」と、「科学の知識を生かして無限の青空にロケットを飛ばすという夢」が対比になり、ドラマティックな効果を上げている。

そして、これがNASAの元技術者の自伝を原作とした実話だという。

実話だからエライとか、そういう話ではない。米国ならではのこうした逸話を、そのエピソードが持つ力を損なわず、ストレートに感動を呼ぶ作品へと結実させた脚本ルイス・コリック、そして監督ジョー・ジョンストンの仕事には最大限の賛辞を送りたい。彼らの仕事が、これを実話としての「あるエンジニアの青春ドラマ」にとどめるのでなく、「夢と希望を追いつづける意思とそのパワーについてのドラマ」に昇華したのである。

そう、あの『スター・ウォーズ』3部作、『レイダース』に大貢献した特撮マン、ジョー・ジョンストンですよ。この映画の監督は。本作のプロデューサー、チャールズ・ゴードンが『ロケッティア』の縁で起用したのだろうか。

監督としてはその『ロケッティア』の他、『ミクロキッズ』、『ジュマンジ』、そして『ロケッティア』。確かに、作品中で「飛ぶ」ことへの憧れや、その描写へのこだわりを見せる人だったとは思う。その男が今回、ロケットを飛ばし、空を見上げて、そこに憧れや希望を見出す映画を撮った。まさか、こういう青春譚を丁寧に描いてみせるとは。ユーモアを交えながら、軽くならず、重くならず、主人公の気持ち、その周囲の人々の気持ちとその変化を描出していく手腕は見事なものだ。

主演のジェイク・ギレンホール、彼が反目する寡黙な父親をクリス・クーパー、主人公を励ます教師にローラ・ダーン。クリス・クーパーは巧いなぁ。

人によって、この映画の感動ポイントは様々だろう。私などは、どうしても、この少年たちが大空を眺めたような視線ででこの映画そのものを見つめてしまう。米国という国の甘くはない現実と同時に、自分の頑張り次第で未来を切り開ける、そういうチャンスを与えてくれる国の姿を、どうにも羨ましく思うからだ。だって、高校生のお遊びのようなロケット作りが、NASAにつながる国なんだよ!

努力は必ず報われる、夢や希望を捨ててはいけない。いつかそれを実現させるために。手作りの小さなロケットが大空へまっすぐと飛び立っていく画面にはなんともいえない恍惚的な感動を覚える。

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