2/16/1999

Storm of the Century

悪魔の嵐(☆☆★)

これは映画じゃないし、映画館で見たわけでもないので、記事を書くのはちょっと例外である。スティーヴン・キングによるオリジナル・書き下ろし脚本を、3大ネットワークのひとつABCが、TVとしては破格といえる3300万ドルの予算をつぎ込んで製作し、3夜にわたって放送したミニ・シリーズなのだ。監督は主にケーブル局のTVムービーを活躍の場としているクレイグR・バクスリィ。

さて、どんな話か。メイン州の小さな島が舞台である。そこに、タイトル通りの「世紀の大吹雪」が刻一刻と迫っていた。そんな折、謎の男が町を訪れる。そして不可解な自殺や殺人が続発する。どんなときも固い結束を貫いてきた小さなコミュニティだが、それをきっかけとして得体の知れぬ不安におそわれる。謎の男の目的はなにか。彼の欲するものを与えなければ、嵐が過ぎ去ったとき町の住民は一人残らず姿を消していることになるという。

さすがに、TV映像化を前提に書き下ろされた全くの新作だけあて、キング原作のTVミニ・シリーズとしてはかなり力作の部類に入ると思うし、質感の高い映像とテーマの面白さで、長丁場を飽きさせない出来映えである。雰囲気としてはTVで「読む」キングの新作小説。3夜合計で正味4時間半をもたせる話術はまさにキングの独壇場だ。

謎の男が現れて小さな町のコミュニティが崩壊の危機にさらされるというプロットは、吸血鬼もの『呪われた町(TV:死霊伝説)』や『ニードフル・シングス』と共通するが、本作はむしろ謎の男と彼がもたらす厄災を恐怖の対象として捉えているのではなく、閉鎖的なローカル・コミュニティのダークサイド、その薄気味悪さこそが恐怖の中心にある。コミュニティの偽善を暴き出し、改めて人々に罪の意識を植え付けるための触媒として、神とも悪魔ともつかぬ謎の男が現れる。

キング版「ハーメルンの笛吹き男」、だろうか。

近年とくに彼が好んでとりあげている宗教的なモチーフ、人生と信仰といったテーマが通底で流れていて、長時間視聴者をTVに釘付けにした挙句、非常に苦いエンディングをむかえることになる。原作者のネームヴァリューがなければ、こんな終わり方は許されないんじゃないのかね。

テレビドラマの割に質感のあるセットに、映画とは比べ物にならないとはいえ破格の予算の効果を感じさせられる。特撮もセンスが悪くないし、クライマックスでずっこけるような安っぽさもない。役者陣はほぼ無名だが、謎の男を演じるコルム・フィオーレが不気味な雰囲気を出していて良い感じだ。その他、目立つ顔がないのは結果的に「田舎町」という設定にリアリティを与える結果になっている。

クレイグ・バクスリィの演出はTV的な分かりやすい描写とカット割で、奇抜な事を試みず、キングのストーリーを「語る」ことに徹している。キングお気に入りのミック・ギャリスより巧いんじゃないか。謎の人物の演出は『羊たちの沈黙』のレクターや、『セブン』のジョン・ドゥを髣髴させ苦笑せんでもない。まあ、ここら辺は、誰が何をやってみてもああなってしまうのかな。この男が牙をむき出すようなカットをしばしば挿入しているが、これはTV的で安っぽいやり口だと思う。

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