2/05/1999

Payback

ペイバック(☆☆★)

『L.A.コンフィデンシャル』の脚色で一躍その名を轟かせたブライアン・ヘルゲランドの監督デビュー作は、メル・ギブソン主演のピカレスクもののハードアクションである。現金強奪が成功寸前に、思わぬ裏切りにあって瀕死の重傷を負った男が、、一命を取りとめて、俺の取り分を返せとばかりに裏切った相棒と金の行方を追う。主人公も悪党だが、他のヤツらはもっと悪党だ。

脇を固めるのは、ジェームズ・コバーンやクリス・クリストファーソンらの強面。他にデボラ・カーラ・アンガー、ルーシー・リュウらが共演。

大した映画じゃないし、好き嫌いもあるだろうが、個人的にはわりと楽しめた。ひまつぶしには悪くないよ。

モノローグを多用した「ハードボイルド」風、一人称で語られている作品である。その主人公を、暴走したら止められない危険な男、その目に宿した狂気の光が似合う男ナンバー・ワンのメルが演じているんだから、それだけである程度の面白さは保証されている。そうそう、最近生ぬるくなっちゃっていたけど、こういうメルがみたいんだよ。

ただ、映画全体としては弾けそこなった感がある。なんだか小さくまとまってしまっているんだよね。製作規模や起用されたスターのランクからいえば、それなりの大作感も必要だと想うのだが、場末の映画館の2本立ての1本が似合うような雰囲気なのだ。まあ、そういう映画の伝統の上に則ったジャンル映画なんだから、まさに狙いぴったりといえばそうなんだけど。

この映画のユニークなところは、ヴァイオレンス描写の在り方だと思う。最近、監督やスターの米国進出もあって、ハリウッド・アクションに「香港風味」が随分と幅を利かせている。メル・ギブソン主演作ひとつとっても、『リーサル・ウェポン』は回を追うたびにそういう傾倒が強くなってきて、当初のリアル・アクションはどこへやら、マンガっぽいアクションへとスタイルを変えてきたのは御存知の通り。

そんな風潮の中で、この映画のヴァイオレンスの見せ方はかなり異質といえる。リアルで、突発的で、痛みを伴うその描写は、ハリウッド映画的な基準で見れば、かなり新鮮である。いってみれば、「北野武」風味が入っている感じだ。R指定上等といわんばかりに、殴る蹴るの一挙一動が「唐突」で、しかも「痛い」。ましてやそんな場面で笑いを取ってしまう「間」の取りかたや、随所の省略の利かせ方。無感覚に人がたくさん死んでいくハリウッド流とは明らかに違うテイストだ。

本作の欠点は、存在感のある男優たちに埋もれて、女優たちに見せ場がないことだ。ハードボイルド風、はよいのだけれど、やはりそこに魅力的な女優は欠かせないはず。デボラ・アンガーはそのポジションには十分な雰囲気を持った女優だが、出番が少なすぎて少々気の毒だった。もう一人、TVでの人気を背景に映画に進出しつつあるルーシー・リュウが「とんでも」なキャラクターを好演して一人で美味しい所をさらってしまったが、これは飛び道具の部類であって、ヒロインとは違うんだよな。

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