7/23/1999

The Haunting (1999)

ホーンティング(☆★)

怖くないホラー。でも、笑えるわけでもないんだよな。まじめに作って、笑えなくて、怖くもない。何の役にも立たない。いってみれば、産業廃棄物みたいな映画である。

一応、シャーリー・ジャクスンのニュー・アメリカン・ゴシックの基礎を築いた『山荘綺談(The Haunting of Hill House)』を原作とする2度目の映画化で、今回は新人デヴィッド・セルフの脚色、ヤン・デ・ボンが監督している。ちなみに、最初の映画化は、傑作と名高い1963年のロバート・ワイズ監督作品『たたり(The Haunting)』。こちらは見えない恐怖の演出がなかなか巧みで、いま見ても面白いのでお薦め。見比べると技術が進化したからって、映画が面白くなるわけじゃないのがよく分かると思う。

さて、本作のお話しだが、「不眠症に関する研究」と偽った恐怖に関する心理学研究の被験者として、ゴシック風の巨大な屋敷にいろんな人が集められてくるところから始まる。その屋敷に秘められた過去があったことから、彼らが体験するのは、研究とは全く関係ない本物の恐怖に変わるのだった、という筋立てだ。出演はリリ・テイラー、リーアム・ニーソン、キャスリーン・ゼータ=ジョーンズら。

まずなによりも脚色が下手である。原作では主に霊現象の研究目的で悪名高い屋敷にやってきた人類学教授と、霊的現象の経験者に送られた招待状を見た人々が集まることになっているのだが、これを改変して、わざわざ導入部をまどろっこしくしている意味が分からない。登場人物間の人間関係や感情も描かれていない。屋敷の過去と登場人物を安易に血縁でつないだのも疑問だし、怪異の正体を暴いて単純な大団円に持ちこもうとするまとめ方も改悪。一見して原作のセッティングを忠実になぞり、有名な台詞(女中が繰り返す不気味な説明)やシーン(おかえり、エリーナ)を持ちこんだりしているが、原作の本質に対してはあまり敬意を表しているように思えない。

脚本の出来次第で映画の出来がぶれまくるヤン・デ・ボンだが、脚本にだけ責任を押し付けるわけにもいかない。最新のVFXで何でも見せられるようになった結果、見せちゃいけないものまで見せてしまったのが最大の敗因であろう。基本、幽霊話なんだから、観客から想像力を奪ってしまったら、何も残らない。遊園地のアトラクションとて、もう少し考えるだろう。撮影監督出身のヤン・デボンがキューブリック信者であることはわりと有名だから、キューブリックの遺作となる『アイズ・ワイド・シャット』の公開も間近となったこのタイミングで、古典小説を原作にして「呪われた屋敷」テーマに挑む以上、デボン版『シャイニング』との期待もあったのだけど、そういう比較のレベルになっていない。

一方で、邪悪な屋敷の内装・外見を含めた造形は頑張っている。「悪しき場所」に相応しい、ユークリッド幾何学を無視した(三角形の内角の和が180度に満たなかったり超過しているという)邪悪な歪みすら感じさせる力作。これは『奇跡の輝き』も担当したプロダクションデザイン担当のユージニオ・ザネッティの功績だろうか。また、『スターウォーズ エピソード1』で導入が始まった「ドルビーEX」対応の凝った音響効果も体感する価値くらいはあるだろう。音楽は巨匠ジェリー・ゴールドスミスが担当。最近の巨匠はなんだか知らないが駄作にばかりに駆り出されているような気がして不憫である。

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