7/02/1999

Summer of Sam

サマー・オブ・サム(☆☆☆)

1977年の夏、記録的猛暑がNYを襲ったあの夏、スタジオ54に代表されるディスコ文化が花開く一方でパンクロックのムーヴメントが勃興しつつあり、人々は「サムの息子」と名乗る連続殺人鬼の影に怯えていた。時に先鋭的、時に挑発的に、常に個性的な作品を発表しつづけてきたスパイク・リーの最新作。出演はジョン・レグイザモ、エイドリアン・ブロディ、ミラ・ソルヴィノら。

申し訳ないが、スパイク・リーは、なんとなく食わず嫌いで熱心に観てきたわけではない。本作も、スパイク・リーだから見たんじゃなくて、映画のはしごをしていて上映開始時間がちょうど都合が良かったので足を運んだというのが正直なところである。どことなくヘヴィーでとっつきにくい印象のある映画ではあるが、わりと面白く見ることができた。もちろん、スパイク・リー好きであれば、生ぬるいとか思うのかもしれないけどね。

映画のタイトルには「犬に命令されて次々人を殺した」といわれる連続殺人鬼のニックネームを冠しているが、実際のところ、映画が描くのは、殺人鬼そのものではなく、事件そのものでもなく、事件を背景にして疑心暗鬼にかられていくブロンクスの若者たちの夏、である。

行き止まり(DEAD END)と書かれた標識の下でたむろする若者たち。そういうあまりにも露骨なイメージを良いと思うか安易と思うかは意見が分かれるだろうが、なんといっても彼らの台詞にある臨場感(ライヴ感覚)と活きの良さがいい。そこに少しばかり超現実的で神経症がかった「サム」がらみの映像が挿入され、ある種の刺激的なリズムが形成されている。この映画において、「サム」は狂言回しに過ぎないのだけれど、ドラマ部分と対等の重さを持たされており、映画全体のトーンを規定してしまう。そういう構成の仕方が非常に面白いと思う。

緊張が頂点にたっしたところで勃発する停電と暴動。人々の間にある疑念や暴力衝動が身近な仲間へと向かっていく理不尽な病理。重くなりすぎず、軽くなりすぎず、先鋭的になりすぎず、しかし個性的に描かれた、70年代NYの一断面。

妻がありながら職場の女主人と浮気をするどこか煮え切らない主人公をレグイザモが好演。この人も作品によってイメージをころころ変えてくる器用な役者だ。「サムの息子」が近隣の知り合いの中にいると思いこんだ悪友たちのいうまま、パンクにはまった友人を裏切るかどうかの重大な決断を迫られていく。そのパンク・ムーヴメントに染まった友人を演じているのがエイドリアン・ブロディで、レグイザモに負けない素晴らしい演技をみせる。正直、『シン・レッド・ライン』のときはここまでいい役者だと思わなかった。

0 件のコメント:

コメントを投稿